遺言書の書き方~自筆で書く自筆証書遺言のポイントと注意点を弁護士が解説
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
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自分で書いて作成する自筆証書遺言は、手軽に作成できる一方で、書き方を誤ると無効になる可能性が高いため、どのように書けばよいのか、注意すべき点は何なのかを理解することが大切です。
本記事では、相続問題に詳しい弁護士が、遺言書を自筆で作成する「自筆証書遺言」に焦点を当て、そのポイントと注意点を詳しく解説します。
1 遺言書を自筆で書く『自筆証書遺言』とは
1-1 『自筆証書遺言』とは
自筆証書遺言とは、遺言者自身が手書きで作成する遺言の形式の一つです。遺言者自身が直接自身の意志を書くため、気軽に自分の遺志を記載することができます。
①自筆証書遺言のメリット
- 手軽さ
- プライバシーの確保
- 法務局で自筆証書遺言を保管してもらうことができる
といった点が挙げられます。
遺言者自身が手書きで筆記するため、誰でも手軽に簡単に自身の意志を形にすることが可能です。
また、遺言内容を他人に知られることなく、自身の意志を静かに記録することができます。他の遺言の形式では必要となる第三者の介入がないため、秘密を守ることができるのです。
さらに、遺言書の保管制度を活用すれば、全国の法務局に遺言書の画像データを保存できるため、遺言書の保管や内容確認、修正・撤回などが手軽になりました。
②デメリット
- 遺言が無効になる可能性がある
- 遺言書が見つからない、故意に隠されるなどのリスク
- 家庭裁判所の検認を受ける場合には1か月以上かかることも
といったものが存在します。
自筆証書遺言には、具体的な書き方やルールがありますので、それらを遵守しなければ、遺言が無効になる可能性があります。
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また、遺言書が適切に保管され、適切な時期に開示される必要がありますので、紛失や死後に見つからない、あるいは故意に隠されてしまうリスクがあります。
さらに、自筆証書遺言は死後、家庭裁判所にて検認を受ける場合には、申立てから1か月以上の期間が必要になることがあります。ただし、法務局で保管している場合には、検認不要となっています。
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1-2 自筆証書遺言が無効になってしまうことも
自筆証書遺言は、手軽さが大きな魅力である一方で、条件を満たさない遺言書は、法律上有効とは認められないため、注意が必要です。
その無効になる具体的として、
■遺言能力がない
病気や加齢によって、財産処分に関する判断能力(遺言能力)がないとされる場合には、遺言書を作成しても、無効とされてしまいます。
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■代筆やパソコンで作成している
自筆証書遺言は、遺言者自身の手書きである必要があるため、他人に代筆させたり、パソコンで作成したりすると無効となります。
■日付がない
自筆証書遺言には、その遺言が作成された年月日を明記する必要があります。日付がない場合、無効となります。
■自筆による署名がない
自筆証書遺言には、自筆による署名がないと、無効となってしまいます。
■押印がない
自筆証書遺言には、印鑑を押しておく必要があります。ただし、押印は実印だけではなく、認印や拇印でも認められます。
これらを踏まえると、自筆証書遺言を作成する際は、遺言者自身が手書きで記述し、作成日を明記し、自筆による署名と押印を忘れないことが重要となります。
間違えたり、書き漏らしたりすることはないと考えてしまいがちですが、裁判になった多くのケースで上記のような問題点が見受けられます。自筆証書で作成する場合には、注意しましょう。
2 遺言書の自筆での書き方について
2-1 財産目録の作成
遺言書を書く上で最初に重要となるのが、財産目録の作成です。
自筆証書遺言では遺言者の意志が具体的に記述されるべきですが、そのためにはまず、何をどれだけの財産を所有しているのか、明確にする必要があります。
財産目録を作成するためには、まず所有している全ての財産の資料を集めます。なお、財産はプラスのものだけではなく、マイナスのものもあります。
■プラスの財産
- 不動産の登記簿、全部事項証明書
- 銀行口座の通帳、取引明細書
- 現金
- 株式や債券、証券会社の取引明細書など
- FX会社、仮想通貨取引所の取引明細書
- 生命保険証書
- 貴金属や美術品などの動産
■マイナスの財産
- 住宅ローンや自動車ローンなど、銀行の取引明細書や残高証明書
- 消費者金融やクレジットカードなどの利用履歴や残高証明書
- 親戚や友人からの借り入れの状況がわかる資料
具体的な財産目録の作成では、遺言者が所有している全ての財産について、具体的に記載する必要があります。
これによって、遺言者が亡くなった後に、財産を巡って争いにならないよう、適切に財産を把握できるようになります。
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2-2 遺言書は手書きで
遺言書の作成にあたっては、遺言者本人の手書きであることが重要となります。
自筆証書遺言はその名の通り、自筆で書かれることが法的に求められることになり、パソコンで作成した場合や、他人に代筆させた場合には無効となります。
遺言書の形式には、用紙やペンの指定はなく、横書きでも縦書きでも問題ありません。
しかしながら、自筆証書遺言は、重要な文書であるため、偽造などを防止する観点から、破れやすい用純や鉛筆、シャープペンシル等は避けることが望ましいです。
一方で、財産目録については、パソコンで作成することが可能となっています。これは、2020年7月に施行された民法の改正によるものです。
ただし、全ページに署名と押印をすることが必要となります。
2-3 相続財産を記載する
遺言者本人が、どの財産を、どのように相続させるのかを明確に示すことが重要です。
遺言書を読んだ人が、どの財産のことを指しているのか把握できないようであれば、トラブルのもとになってしまうからです。
例えば、不動産を複数所有している場合や、いくつもの銀行口座に分散して預金を所有している場合に、『不動産を相続する』『預貯金を相続する』と記載しても、どの不動産なのか、どの銀行口座なのか判断できません。
このように遺言書の内容が曖昧であると、相続人それぞれの解釈の違いから、争いが生じる可能性があります。
そのため、不動産であればその所在地と登記簿謄本に記載されている表示方法を用い、預金であれば支店名や口座番号を記載するとよいでしょう。
これにより、誰が見てもどの財産を指しているのかが明確になります。
遺言書を読んだ人が、遺言書の内容を明確に理解するために、すべての財産を漏れなく、そして細かく、さらには正確に記載することが重要です。
2-4 相続範囲と相続内容を記載する
誰がどの財産をどのように相続するかといった、遺言者本人の意思を明確にするため、相続人の範囲と相続内容を具体的に記載します。
配偶者や子供、孫など具体的な相続人を記載し、全体の相続財産から何を、誰が、どれだけ受け継ぐのかをはっきりと示すことが重要です。
相続の順番については、配偶者が1番、子供が2番となるため、例えば、①配偶者に現金5000万円、②長男に現金2000万円、③次男に現金1000万円、などと記載します。
もし特定の相続人に多くの財産を相続したい場合は、その旨をしっかりと遺言書に記載しましょう。
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2-5 作成した日付、署名、押印を忘れずに
自筆証書遺言を作成する際には、日付、署名は絶対に忘れずに記載し、押印します。これらが欠けると、遺言書の効力として認められません。
日付は遺言書を作成した日を明記することが必要で、具体的には「令和5年1月1日」「2023年1月1日」といった形で記述します。
なお、遺言書が複数存在する場合には、新しい日付のものが効力を持つとされています。
また、自筆による署名が必須となり、押印を忘れないようにします。押印については、トラブルを避けるためにも、実印をおすすめします。
さらに、遺言書が未開封であることを証明するため、遺言書を封筒に入れ、封印しておくことを推奨します。
これにより、遺言書が亡くなる前に他人によって改ざんされたり、内容が漏洩したりするのを防げます。
【関連記事】遺言書が偽造されたらどうすればいい?疑った際の法的手続きから防止策まで弁護士が解説
2-6 付言事項
遺言には、財産に関すること以外に、付言事項として、葬儀やお墓、ペットに関する希望を記載することもできます。これらの希望がある場合には、合わせて記載しましょう。
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3 自筆で遺言書を書く際の注意点
3-1 修正する際のポイント
遺言内容は、内容を変更することや書き足すことができますが、そのような修正をする際には注意が必要です。法律に定められているルールが存在するからです。
遺言書上で訂正する場合には、訂正したい部分に二重線を引いて消し、正しい文言を横書きの場合には上部に、縦書きの場合には横に書き入れます。
そして、二重線を引いた近くに訂正印を押印します。二重線を引いた文字のうえから押印することは可能ですが、元の文字が見えるようにしておくことが大切です。
さらに、修正したことを示すために、末尾や訂正箇所付近に、「3行目の○○を△△に訂正した」などと、具体的に何を修正したのかを書き、署名と押印をします。
重要な点として、遺言書の修正には修正テープの使用や、間違いを黒く塗りつぶすような方法は使用しないでください。これらの方法で修正した場合、遺言書が無効と判断される可能性があります。
修正した部分に署名や押印が抜けると、遺言書全体が無効になりますので、忘れずに行うようにしましょう。
3-2 共同の遺言書は作れない
自筆証書遺言を作成する際には、『共同遺言の禁止(民法975条)』が規定されていますので、共同の遺言書を作成することはできません。
そのため、どうしても夫婦で共通の遺言内容を残したい場合であっても、それぞれが単独で遺言書を作成する必要があります。
3-3 開封する際のポイント
自筆証書遺言の効力を発生させるためには、遺言書を勝手に開封してはならず、その手続きは一定のルールに基づいて行われます。
遺言者が亡くなった後、自筆証書遺言の存在が明らかになった場合、相続人たちは原則として家庭裁判所にて遺言書の「検認」を受けなければなりません。
検認とは、裁判所が遺言書の内容を確認し、保存する手続きのことを指します。これによって、内容の改ざんや偽造、破棄を防ぐことができます。ただし、検認手続きには、申立てから1か月から2か月程度が必要になります。
【関連記事】自筆の遺言は開封前に検認が必要!必要書類や注意点・手続きの流れを手順で解説
そのため、近年においては、検認手続きをする必要のない『自筆証書遺言書保管制度』の利用が増えています。
自筆証書遺言書保管制度とは、法務省が2020年7月から行っている制度であり、法務局に保管することができ、さらに法律を満たしているのか確認してくれます。
また、原本だけではなく内容を画像データで保存されることになり、死亡後には相続人が全国の法務局に申請すれば、遺言書の内容を確認できます。
4 まとめ:自筆証書遺言は無効にならないように弁護士へ相談しましょう!
本記事では、自筆での遺言書『自筆証書遺言』の書き方について、具体的な内容と注意点について詳しく解説しました。
自筆証書遺言は、その手軽さから選択されることが多い一方で、書き方が間違っていたり、署名・日付が抜けていたりすることによって、無効になるケースも存在します。そのため、どのように書けばよいのか、注意すべき点は何なのかを理解することが、大切な財産を正しく相続するためにも重要です。
特に、自筆証書遺言は手軽に実行できるものでありながらも法的な規定があるため、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
使途不明金や不動産の評価等の専門的な遺産調査や、交渉・裁判に力を入れて取り組んでいます。
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