死亡事故の葬儀関係費用は賠償金として支払われます
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
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慰謝料の増額、後遺障害認定のサポートを中心に、死亡事故から後遺障害、休業損害の請求に取り組んでいます。
交通事故の被害者救済のために、積極的に法律・裁判情報の発信を行っています。
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この記事でわかること
- 死亡事故で葬儀費用は認められます
- 葬儀費用は裁判基準で150万円
- 例外的により高額の葬儀費用が認められることもあります
- 香典返しは対象外
- 死亡事故は必ず弁護士へ相談しましょう
死亡事故によって大切な人を失った被害者遺族は、深い悲しみに包まれるだけではなく、その後の生活にも大きな不安を抱えることが少なくありません。
交通事故で被害者が亡くなられた場合、相手方(加害者)に損害賠償を請求することができます。
損害賠償というと、遺族が受けた精神的苦痛に対する「慰謝料」や、将来の収入が得られなくなったことに対する「逸失利益」、死亡までの「治療関係費」の補償などが挙げられますが、故人の「葬儀代」は補償の対象になるのでしょうか。
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葬儀代は、事故直後に必要となるものであり、また金額も高額になることが多いものです。今後の収入の不安も抱え、突然まとまった支出を余儀なくされることはあるのか。
今回は、そのようなご不安に対し、死亡事故が起こった場合に葬儀費用が補償されるかどうかについて説明するとともに、葬儀関連費用の対象になるものと認められる金額、死亡事故の葬儀費用の判例、香典および香典返しの扱いについて解説します。
1 死亡事故で葬儀関係費用は出るのか
葬儀関係費用は決して安いものではないため、遺族にとって大きな負担となります。
死亡事故が起こった場合、はたして葬儀費用は賠償金の一部として出してもらえるのでしょうか。
1-1 葬儀関係費用の請求は認められます
結論から述べると、死亡事故が起こった場合、相手方に葬儀関係費用を請求することは可能です。
損害賠償における「損害」には、財産的損害と精神的損害の2つがあり、前者は実際に被った財産上の損害、後者は精神的苦痛による損害を意味します。
葬儀関連費用は死亡事故が起こらなければ発生しなかった費用であることから、財産的損害とみなされ、損害賠償請求の対象となります。
以下では、具体的な損害賠償請求の対象となる葬儀関係費用について解説します。
①葬儀費用
葬儀費用とは、葬儀そのものにかかる費用のことです。具体的には、以下のようなものが葬儀費用に含まれます。
- 葬儀用具
- 棺
- 納棺用品
- 祭壇費
- 霊柩車・寝台車
- 式場料
- サービス費用
葬儀用具とは、枕飾りや提灯、位牌、香炉、たいまつ、四本幡などにかかる費用のことです。これらは通常、葬祭業者からレンタルすることになり、その使用料が葬儀費用として加算されます。
納棺用品とは棺布団やシーツ、浴衣、保冷シーツ、納体袋など、納棺の際に使用する道具のことです。サービス費用は納棺や通夜、告別式の進行、駐車場警備など、葬儀に係る人件費を指します。
②葬儀関連費用
葬儀関連費用とは、葬儀費用以外にかかった関連費用のことです。たとえば、火葬費用や法要などが葬儀関連費用に該当します。
なお、葬儀費用と葬儀関連費用をまとめて「葬儀関係費用」、「葬儀関連費」と呼ぶこともあります。
③請求権者は実際に葬儀費を負担した人です
死亡事故に伴って発生した葬儀費用の請求権は、実際に葬儀費用や葬儀関連費用を負担した人が有します。
一般的には喪主が請求権者となりますが、たとえば伯父(亡くなった方の兄)が葬儀費用および葬儀関連費用を負担し、子が喪主を務めた場合、葬儀費用の請求を有するのは実際に費用を支払った伯父です。
なお、請求権に血縁関係の有無は関係なく、たとえば故人の勤め先が負担した場合でも、請求権は実際の負担者が持つことになります。
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1-2 葬儀関連費用として支払われるもの
損害賠償請求できる葬儀関連費用には、一定の制限があります。
具体的には、以下のようなものが葬儀関連費用として支払われます。
- 葬儀費
- 火葬費
- 遺体運搬費
- 埋葬費
- 祭壇費
- 読経費
- 法名代
- 花代
- 通信費
- 葬儀広告費
- 謝礼
- 仏壇費
- 仏具購入費
- 墓碑代
- 法要費
通信費とは、故人と縁のあった人たちに連絡する際に用いた電話代や死亡通知の郵送費などのことです。謝礼はお坊さんなどに支払うお布施や交通費などが含まれます。
1-3 葬儀関連費用として支払われないもの
一方、以下のようなものは葬儀関連費用としての請求が認められていません。
- 弔問客接待費
- 香典返し
- 四十九日忌を超える法要費
法要費は葬儀関連費用として認められますが、支払われるのは四十九日の法要費までです。
百か日や一周忌など、四十九日忌以降の法要に関しては葬儀関連費用として請求できないため、あらかじめ注意が必要です。
また、弔問客接待費や香典返しも葬儀関連費用として支払われないことを覚えておきましょう。
1-4 葬儀関連費用で認められる金額
葬儀関連費用で認められる金額は、採用された基準によって異なります。
ここでは葬儀関連費用の金額を決める際に用いられる3つの基準についてご説明します。
①自賠責基準
自賠責基準とは、交通事故によって死傷した被害者に対し、法令で定められた最低限の補償を行うことを目的とした基準のことです。
自賠責保険の場合、葬儀費として100万円が支払われる規定になっています。
支払い対象となるのは通夜や祭壇、火葬、墓石などの費用で、墓地や香典返しは対象外となります。
自賠責保険は法律で加入を義務づけられた保険ですので、死亡事故が発生した場合、最低でも自賠責基準の補償は受けられることになります。
②任意保険基準
任意保険基準とは、任意保険会社が独自に定めた支払基準のことです。
相手方が任意自動車保険に加入している場合、その保険会社の基準に基づいて対人賠償保険が支払われます。多くの任意保険では対人賠償限度額を無制限としていますが、その支払い基準は一般に公開されていません。
そのため、死亡事故の損害賠償として、どのくらいの葬儀費用が支払われるかを断言することはできません。
最低限の補償を行う自賠責保険よりは基準が高いと言われていますが、後述する裁判基準に比べると低額です。
なお、任意保険は自賠責保険の金額に上乗せされる形で支給されます。ただし、任意保険はその名の通り、任意で加入する保険です。自賠責保険のように強制加入ではないため、相手方が任意保険に加入していないケースもあります。
その場合、支払基準として採用されるのは自賠責基準か、後述する裁判基準のいずれかとなります。
③裁判基準(弁護士基準)
裁判基準とは、過去の裁判の判例に基づいた支払い基準のことです。
具体的な基準については、通称「赤い本」と呼ばれる公益財団法人 日弁連交通事故相談センター発行の「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」に記載されています。金額は150万円です。
自賠責保険や任意保険に比べると高い基準が設定されているため、同じ状況でも2つの基準より賠償額が大きくなる傾向にあります。
2 死亡事故の葬儀関係費用の判例
死亡事故の葬儀関係費用の支払いを巡る具体的な判例を2つご紹介します。
2-1 葬儀関係費用を認めた判例
昭和43年10月3日に最高裁判所第一小法廷で行われた判決では、遺族が負担した葬式費用は、それが特に不当そうなものでない限り、人の死亡事故によって生じた必要的出費として、加害者側の賠償すべき損害と解するのが相当であるとしています。[注2]
人は誰しも死から免れることはできないため、いずれ必要になる葬儀費用を賠償する必要があるのかどうかが争点となりましたが、法廷ではそれが賠償を免れる理由にはならないという判決を下しています。
[注2]裁判所「最高裁判所判例集 事件番号昭和40(オ)330」p.2〜3,p3
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/440/066440_hanrei.pdf
2-2 150万円以上を認めた判例
最も基準の高い裁判基準であっても、葬儀費用の賠償額が150万円を超えることは基本的にありません。
ただし、亡くなった方の立場などから大規模な葬儀が必要であったなど、特別な事情がある場合は150万円以上の賠償金が認められることもあります。
たとえば平成13年7月11日に判決が下った札幌地裁の判例では、亡くなった方が銀行支店長を務めていた関係上、大規模な葬儀を行わざるを得なかった事情を鑑み、葬儀費用として200万円の賠償が認められました。
葬儀費用が高額にならざるを得なかった事情が認められれば、一般的な上限である150万円を超えた賠償金を得ることも可能です。
3 香典や香典返しは賠償の対象外
弔問客から渡された香典への御礼を兼ねた香典返しについては、損害賠償の対象にはなりません。
最高裁の過去の判例にて、「会葬者等から贈られる香典は、損害を補填すべき性質を有するものではないから、これを賠償額から控除すべき理由はない」という判決が言い渡されています。
そのぶん、香典返しの費用も財産的損害とは認められないため、損害賠償の対象からは除外されます。
4 まとめ:死亡事故は弁護士へ相談しましょう!
死亡事故に伴う葬儀費用および葬儀関連費用は損害賠償請求の対象となります。
ここでいう葬儀費用とは、葬儀そのものにかかった費用に加え、火葬費用や遺体運搬費、埋葬費用、通信費、謝礼なども含まれます。
ただし、弔問客接待費や香典返し、四十九日忌を超える費用については請求対象外となりますので注意しましょう。
賠償額は自賠責基準、任意保険基準、裁判基準のいずれかをもとに算出されますが、このうち最も基準が高いのは過去の判例に基づいた裁判基準です。
弁護士に依頼すれば、裁判基準で葬儀費用の賠償額を算出できます。死亡事故の賠償金は遺族の将来の生活にも直結する非常に重要な問題です。ぜひ弁護士へのご相談・ご依頼をご検討ください。
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