内縁関係にある妻や夫が『特別縁故者』として相続するには?相続問題に精通した弁護士が解説

監修者ベストロイヤーズ法律事務所

弁護士 大隅愛友

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婚姻関係はなくても、長年にわたり夫婦同然の関係を築いてきた方々がいらっしゃいます。

そんな中で、一方が亡くなったとき、残された方は「内縁の妻や夫」としてどのように相続権を主張できるのでしょうか。

この記事では、相続問題に精通した弁護士から、内縁関係にある妻や夫が相続問題に直面した際に知っておくべきポイントについて、『特別縁故者』としての相続の可能性を踏まえて解説します。

内縁関係にある方々が直面する相続問題についての理解を深め、適切な対応を取るための助けとなれば幸いです。

1 内縁とは?内縁関係と相続の問題点

1-1 そもそも『内縁』とは

内縁とは、男女が法的な婚姻手続きを経ていないにもかかわらず、結婚と同様の生活を送っている関係を指します。

内縁関係でも、一般的な夫婦と同じように、共同生活を営み、互いに協力し合う義務があります。同居、相互扶助、貞操の維持などといったものです。

しかし、法律婚とは違ういくつかの特徴があります。

例えば、内縁関係では姓が変わることはありません。また、子どもが生まれた場合、その親権は通常、母親に帰属します。

そして最も重要な違いの一つとして、内縁のパートナー間には法律上の相続権が存在しないのです。

現在、内縁関係はある程度法的保護を受けていますが、正式な婚姻関係にはないため、特に相続の際には問題が生じやすいのです。

この点を理解することは、内縁のパートナーが互いにどのような権利と義務を持っているのか、そして将来的にどのようなリスクがあるのかを把握する上で非常に重要です。

1-2 内縁関係の具体例

内縁関係が法的に認められるためには、いくつかの重要な条件があります。

ただ同じ屋根の下で生活しているだけでは、関係が内縁として認識されることはありません。

まず基本となるのは、両者が婚姻の意思を持っていることです。単に恋愛関係にある、あるいは同棲しているだけでは不十分です。

内縁関係と認められるためには、その関係が「客観的に夫婦として認識されうる状況」にある必要があります。

たとえば、両者が結婚式を挙げていたり、周囲の人々に夫婦として認知されていたりする場合、内縁関係と見なされやすくなります。

また、住民票上に「妻(未届)」などの記載がある場合や、社会保険の被扶養者として登録されている場合も同様です。

さらに、内縁関係を証明するためには、夫婦同然の共同生活を送っていることが重要です。

例えば、共同で住居を借りている場合、賃貸契約書に「妻(未届)」との記載があると、共同生活をしている証拠となります。同一住所の住民票もこの証拠になります。

「一定期間」というのも、内縁関係を認定する上での重要な要素です。一般には3年以上の共同生活が内縁と認められる目安とされています。

しかし、これらの条件が一つでも欠けている場合や、具体的な事実関係によっては、関係が内縁と認められないこともあります。

内縁関係の証明は、多くの場合、これらの条件を総合的に考慮して判断されます。そのため、特に相続の場合などでは、こうした公的な書類や証拠が非常に重要になってきます。

1-3 内縁関係にある妻や夫には相続権はない

内縁関係にある妻や夫が直面する最大の問題の一つは、法的に相続権を有しないという点です。

内縁は、婚姻届を提出せずに夫婦同様の生活を営む男女の関係を指します。

社会的にはある程度認知されつつあるものの、戸籍上の婚姻関係とは異なるため、法的な扱いにおいては重要な違いがあります。

民法における法定相続人とは、故人の財産を相続する権利を持つ人々を指します。

配偶者、子ども、直系尊属(父母や祖父母など)、兄弟姉妹が含まれますが、内縁のパートナーはこの範囲に含まれません。

つまり、内縁関係にある妻や夫は、故人の配偶者として相続権を主張することはできないのです。

また、特別な事情があった場合に相続権を認められる「特別寄与分」という制度が存在します。

これは、故人の介護や生活支援などに貢献した親族が、その貢献に見合った財産の分割を請求できるものです。

しかし、この請求権は被相続人の「親族」に限られており、内縁関係のパートナーはこの制度を利用することができません。

1-4 内縁関係の子どもの相続権は

内縁関係における子どもの相続権については、いくつかの重要なポイントがあります。

相続に関して、民法では配偶者以外の第1順位の相続人として「子」が挙げられています。

ここでいう「子」とは、法的に認められた嫡出子、つまり正式な夫婦関係から生まれた子どもを指します。

一方で、内縁関係から生まれた子ども、いわゆる「非嫡出子」は、法的な父子関係が確立されていない限り、原則として相続人にはなりません。

しかし、父親がその子を認知する場合、非嫡出子も法定相続人として認められます。

重要な点は、認知された非嫡出子は、嫡出子と同等の相続権を有するということです。相続分において嫡出子と非嫡出子の間に差異は生じないのです。

父親が子を認知するためには、役所に「認知届」を提出する方法があります。また、遺言で子を認知する、いわゆる「遺言認知」も有効な手段です。

万が一、父親が生前に認知しなかった場合、母親は家庭裁判所に「強制認知」の申し立てをすることが可能です。

1-5 重婚的内縁の場合は

「重婚的内縁」とは、一方または双方のパートナーが法的な配偶者を持ちながら、婚姻届を提出せずに別の人と夫婦同様の関係を持つ状況を指します。

この関係性は、通常の内縁関係とは異なる法的扱いを受けます。

裁判所の観点から見ると、重婚的内縁は法的に保護される立場にはありません。

この理由として、既存の婚姻関係を放置し、別の相手と生活を共にする行為が、法律上の不法行為にあたると見なされるからです。

法律は、そのような不法行為に基づく関係を支持または保護することはありません。

しかし、特定の状況下では、重婚的内縁の関係でも一定の権利が認められることがあります。

例えば、慰謝料の請求や財産分与に関する権利が、通常の法律婚や内縁のケースと同様に認められる可能性があります。

これは、実際の生活状況や双方の関係性の具体的な事情に応じて判断されるものです。

2 内縁関係にある妻や夫に相続させるには

2-1 婚姻関係を結ぶ

内縁関係にあるカップルが相続問題に直面した際、最も確実な解決策の一つは、法律上の婚姻関係を結ぶことです。

内縁の状態では、先に述べたように相続に際して多くの困難が伴いますが、婚姻届を提出し正式な夫婦となることで、これらの問題は取り除かれます。

多くの内縁のケースには、婚姻届を提出しないことにさまざまな理由があるかもしれません。

しかし、法的な婚姻関係に入ることで、内縁の妻や夫への遺産相続を確実に行うことが可能となります。

婚姻期間の長さに関わらず、たとえ1日であっても、法的に婚姻関係にある夫婦は相続権を有します。

したがって、内縁関係にある場合には、将来の相続を見据えた場合、法律上の婚姻関係を結ぶことを検討する価値があるのです。

2-2 生前贈与をしてもらう

内縁関係のパートナーへ財産を確実に渡したい場合、生前贈与という手段があります。

内縁関係であっても、贈与者と受贈者の関係にかかわらず実施することが可能です。

生前贈与を利用すれば、内縁のパートナーに対して、自身が生存している間に財産を移転させることができます。

しかし、生前贈与にはいくつか留意点があります。

まず、生前に贈与されなかった残りの財産について、内縁のパートナーは法的に相続する権利を持ちません。

そのため、贈与を考える際には、どの程度の財産を移転するかを慎重に計画する必要があります。

また、贈与税に関する規定も重要です。受贈者が1年間に受け取る贈与額が110万円を超える場合は、贈与税の申告と納税が必要になります。

2-3 遺言書で遺産を贈与する

遺言書を用いて遺産を贈与する方法は、内縁関係にあるパートナーに対して特に有効です。

遺言書は、故人の意思を反映したものであり、法定相続よりも優先される強力な効力を持ちます。

内縁の夫婦間では相互に相続権がないものの、遺言書に財産を譲る旨を明記すれば、法的な婚姻関係がなくても相続が可能です。

しかし、この方法にはいくつかの注意点があります。

まず、遺言によって財産を受け取る内縁のパートナーは、相続税の対象となる可能性があります。

相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告が必要になります。

なお、内縁のパートナーは、配偶者向けの相続税額軽減制度の対象外であり、さらに相続税額に2割が加算される可能性がある点も留意が必要です。

また、本来の相続人には「遺留分」という権利があります。法律で保障された一定の割合の相続財産を受け取る権利のことを指しています。

したがって、故人が内縁のパートナーに全財産を譲る旨の遺言を残していたとしても、本来の相続人から遺留分の請求がなされる場合、その請求に応じて財産を分配しなければならない可能性があります。

2-4 生命保険の受取人にする

内縁のパートナーに財産を残す方法として、生命保険の受取人を指定する手段があります。

生命保険の受取人は一般的に配偶者や近親者が選ばれますが、特定の条件下で内縁関係のパートナーも受取人になることが可能です。

内縁のパートナーを保険金の受取人にするためには、以下の条件が満たされる必要があります。

まず、お互いに法的な配偶者がいないことが必要です。次に、一定期間、同居していること、さらに生計を共にしていることが求められます。

共同生活の期間は保険会社によって異なるため、具体的な期間は事前に保険会社で確認する必要があります。

保険金の受取人として内縁のパートナーを指定する際には、共同生活の事実を書類などで証明する必要があります。

そのため、住民票の手続きなど、事前の準備が重要です。また、内縁のパートナーが受け取る保険金は、相続税の課税対象となることを理解しておく必要があります。

2-5 特別縁故者として遺産を受け取る

内縁の妻が遺産を受け取る方法として、「特別縁故者の申し立て」があります。

この申し立てを家庭裁判所で行い、裁判所が認めると、相続財産分与により財産を受け取ることが可能になります。

特別縁故者とは、故人と特別な関係にあった人を指します。

具体的には、生計を共にしていたり、対価を得ずに故人の日常の世話をしていたりする場合に該当することがあります。

① 被相続人と一緒に生計を立てていた人

家族としてではなくても、被相続人と一緒に生計を立て、日常生活に深く関わっていた人が該当します。

② 被相続人の療養・看護に従事した人

被相続人の健康状態が優れず、その療養や看護に専念していた人も特別縁故者になる可能性があります。

③ その他特別な関係を持つ人

被相続人と特別な縁故があったと認められる人も、特別縁故者となることができます。

非常に幅広く、具体的な例としては、被相続人にとって精神的に大きな支えとなっていた人物や、長年にわたって親密な関係を築いてきた人などが考えられます。

内縁の妻は、こうした条件に適合するケースが多いため、特別縁故者として認められる可能性があります。

ただし、この方法で財産分与を受けるには条件があります。

特に重要なのは、他に相続人が存在しない場合に限られる点です。

たとえ他の相続人との連絡が取れなくても、一人でも相続人が存在する場合、特別縁故者による財産分与は認められません。

さらに、財産分与で受け取れる遺産の額は、裁判所が定める金額に限られます。

このため、故人の遺産全額を受け取ることはできず、実際に分与される額は制限されることになります。

内縁の妻が特別縁故者として遺産を受け取る際には、これらの制約や条件を充分に理解し、適切に申し立てを行うことが重要です。

3 内縁関係にある妻や夫が『特別縁故者』として相続するには

3-1 特別縁故者として相続する流れ

内縁関係にある人などが特別縁故者として遺産を受け取るためには、自動的に認められて進むようなことはなく、いくつかの法的手続きが必要です。

まず、特別縁故者と認められるためには、家庭裁判所への申し立てが必要になります。

①相続財産清算人選任の手続き

申し立ての前には、「相続財産清算人」の選任手続きが必要です。相続財産清算人は、故人の財産の管理や相続手続きの進行を担う重要な役割を果たします。

②相続人の調査

相続財産清算人が選任された後に行われる重要な取り組みの一つが、『相続人の調査』です。法定相続人が存在しないと思われる場合でも、実際に相続人がいないかを確認するために必要となります。

③財産や債務の整理

相続財産管理人は、故人(被相続人)の財産だけでなく、債務に関しても取り扱います。もし故人に債権者が存在する場合、相続財産管理人の責務として、債務を遺産から支払うことになります。

④相続人不存在の確定・相続財産分与の請求

相続人が見つからない場合、相続人の不存在は確定し、特別縁故者には相続財産分与の申立権が与えられることになります。特別縁故者が申立を行い、それが認められれば、遺産を分与される権利が与えられます。

3-2 相続人はいるが連絡がつかない場合

相続のプロセスにおいて、全ての相続人が集結することは必ずしも求められませんが、遺産分割協議を終えるためには全員の同意が必要です。

このため、一人でも相続人が欠けている場合、遺産分割協議を完了させることはできません。

もし一部の相続人と連絡が取れない場合、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てることによって、不在の相続人に代わり、遺産分割協議に参加させることが可能です。

「不在者」とは、ある程度の期間、行方不明の状態にある人を指します。

ただし、「数日前までは連絡が取れていたが、相続開始時には連絡が取れなくなった」という状況では、単に連絡が取れないだけで行方不明とは判断されません。

逆に、長期間の不在が明らかである場合、失踪宣告を利用することも可能です。

失踪宣告は、その人の生存が確認された最後の時から7年以上が経過した場合に適用され、失踪宣告がなされると、その人は法的に「死亡したもの」と見なされます。

これにより、失踪した相続人を含めて遺産分割協議を進めることが可能になります。

このように、相続人が連絡不通の場合、不在者財産管理人の選任や失踪宣告などの法的手続きを通じて、相続を進めることができます。

これにより、相続人全員の同意を得ることなく遺産分割協議を完了させることが可能となるのです。

4 内縁関係にある妻や夫が遺産を受け取る際の注意点

4-1 配偶者控除は対象外となってしまう

特別縁故者が遺産を受け取る際の税金については、遺贈によって財産を取得したものと見なされ、相続税が課されることになります。

ただし、特別縁故者は法定相続人とは異なり、一般的な相続に適用される控除の恩恵を受けられない可能性があります。

相続税に関しては、「3,000万円+(法定相続人の数×600万円)」という基礎控除の規定がありますが、特別縁故者の場合は「3,000万円」の基礎控除のみが適用され、法定相続人1人あたりの追加控除「600万円」は適用されません。

4-2 相続税額に2割が加算されることになる

相続税法では、被相続人の1親等の血族または配偶者以外が相続する場合には、相続税額に2割が加算されることになります。

不動産を含む相続財産がある場合、これを売却せずに保持すると、現金が手元にない状態で相続税を支払わなければならない状況が生じる可能性があります。

特に不動産価値が高い場合には注意が必要です。

ただし、特別縁故者であっても、基礎控除額の「3,000万円」は適用されます。

そのため、相続によって受け取る財産の総額が3,000万円以内であれば、相続税の課税対象外となります。

5 まとめ

この記事では、内縁関係にある妻や夫が相続において直面する問題と、それに対処するための方法についてお伝えしました。

内縁関係は、法律婚と比べて相続における権利が限定されていますが、それでもさまざまな手段を通じて相続を受けることが可能です。

ただし正しい理解と複雑な法的手続きを伴いますので、相続問題に精通した弁護士の助言を求めることをおすすめします。

 

監修者

ベストロイヤーズ法律事務所

代表弁護士 大隅愛友

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