遺言書が偽造された?犯人への訴訟や刑事告訴について弁護士が解説!

監修者ベストロイヤーズ法律事務所

弁護士 大隅愛友

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遺言は故人の最後の意思として最大限尊重されるべきです。

もし遺言書が偽造されたとなれば、相続に関する法的処理を著しく阻害するだけでなく、故人に対しても卑劣な犯罪行為があったことになります。遺言書を偽造した場合、民法と刑法の両方から制裁が可能です。

本記事では、遺言書を偽造した人に対して民事訴訟や刑事告訴を行うことについて解説します。

1 遺言書の偽造とは

遺言書の偽造とは、故人の名前で故人の意思にもとづかない遺言書を作成することです。遺言書を偽造したり変造したりした場合、相続欠格となり自動的に相続権を失います(民法第891条)。

1-1 「偽造」と「変造」の違い

「偽造」に似た言葉ですが、遺言書の変造はすでに故人が作成した遺言書の内容を後から改変する行為です。「偽造」の場合は故人の氏名を勝手に使って一から文書を作成しますが、「変造」は被相続人本人が作成した遺言書に手を加えるという点で異なります。

1-2 相続欠格とは

相続に関する法律を犯し、悪質性の高い行為を行った人は、本人の意思に関わらず永遠に相続権が剥奪される相続欠格という状態になります。失った相続権は2度と戻せません。たとえ遺言があったとしても、相続欠格になった人は1円も財産を受け取れないのです。

2 遺言書を偽造した責任:刑事告訴

遺言の偽造は刑事上の責任を負い、刑事罰の対象になります。遺言書の偽造で該当する可能性のある罪名は下記の2つです。

  • 有印私文書偽造罪(刑法第159条)
  • 偽造有印私文書行使罪(刑法第161条)

それぞれについて解説します。

2-1 有印私文書偽造罪

有印私文書偽造罪は刑法159条1項にあり、他人の印や署名を使って私文書を偽造する犯罪です。遺言書は公文書ではないため、「権利、義務又は事実証明に関する文書」である「私文書」に該当します。そのうえ自筆証書遺

言または秘密証書遺言は法的要件に押印があるため、「有印私文書」となります。

有印私文書偽造罪の法定刑は「3か月以上5年以下の懲役」で、罰金刑は規定されていません。なお刑法159条2項には、有印私文書変造罪が規定されており、遺言書を変造した場合はこれに該当します。

2-2 偽造有印私文書行使罪

偽造した遺言書を実際に行使すると、刑法161条1項にある偽造有印私文書行使罪になります。

「行使」とは、偽造した遺言書の内容が正しいものとして誰かに認識された時点で成立します。

法定刑は「3か月以上5年以下の懲役」です。遺言書の偽造と行使は牽連犯(けいれんはん)の関係にあたります。

牽連犯とは、ひとつの犯罪の手段が複数の罪名に触れることです。牽連犯と認められた場合、法定刑が最も重いものになります。そのため、上記両方の罪にとわれた場合の法定刑は「3か月以上5年以下の懲役」となります。それぞれの法定刑が加算されるというわけではありません。

3 遺言書を偽造した責任:民事訴訟

民事では下記2つの訴訟を提起していくことで、両方とも勝訴すれば遺言を無効にしたうえで偽造した人の相続欠格を確定させられます。

  • 遺言無効確認請求訴訟
  • 相続権不存在確認請求訴訟

それぞれについて解説します。

3-1 遺言無効確認請求訴訟

遺言無効確認請求訴訟は、遺言が無効であると裁判所に認めてもらうための訴訟です。

偽造された可能性が高い遺言書の有効性を主張する他の相続人がいる場合に必要です。

勝訴した場合、遺言書はなかったものとされ遺産分割協議が行われることになります。なお遺言無効確認請求訴訟は遺言者が亡くなってからでないと提起できません。

また「調停前置主義」と呼ばれ、遺言無効確認請求訴訟を提起するには事前に調停を経ておかなければならないこともあります。

※調停とは、家庭裁判所の調停員が仲介に入って行われる相続人同士の話し合いです。管轄の家庭裁判所に調停の申立を行うことで手続きをすすめていけます。

3-2 相続権不存在確認請求訴訟

相続権不存在確認請求訴訟とは、相手に相続人として遺産を受け取る権利があるかどうかを争う訴訟です。

上述のとおり遺言書を偽造した人間は相続欠格になります。遺言無効確認請求訴訟とあわせて相続権不存在確認請求訴訟も行われるケースは少なくありません。

しかしこれらの民事裁判で勝訴し、裁判所が「遺言書が無効である。」「遺言書を偽造した者に相続権はない。」と判決を下したとしても、偽造した人は相続権を失うだけであって処罰されるわけではありません。処罰を求める場合は、刑事告訴して上述したような罪名で責任を負わせる必要があります。

4 遺言書の偽造で損害賠償請求ができることも

民法第709条には「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」とあります。もし偽造された遺言書によって損害を受けた相続人や受遺者がいた場合、遺言書を偽造した人に対して損害賠償を請求できます。

5 遺言書の偽造で争う手順

遺言書が偽造されているのではないかと考えられるときは、証拠集めをして民事訴訟や刑事告訴で争う準備が必要です。

5-1 証拠を集める

まずは客観的に偽造と判断できるような証拠を集めていく必要があります。

遺言書偽造の場合、筆跡鑑定が有力な証拠のひとつになることが多いです。

また遺言書の作成日付近について、故人が介護を受けていた記録や医療カルテなども証拠となることがあります。当時から遺言を書く理由や動機が本当にあったのか、そもそも遺言応力があったのかなどがポイントとなるからです。

有力な証拠を集められれば、遺言書を無効にしたうえで偽造をした相手に相応の責任を負わせられる可能性が高まります。証拠集めに不安がある場合は弁護士に相談するのも有効な手段です。

5-2 民事訴訟

証拠が集まったら遺言無効確認請求訴訟・相続権不存在確認請求訴訟を提起しましょう。

ただし上述のとおり家庭裁判所での調停を経なければならないケースもあります。民事訴訟は管轄の地方裁判所ですすめていきます。第一審から上告審までの期間は数年かかることもあるため、長期戦になる覚悟が必要です。

5-3 刑事告訴

民事訴訟と同時並行で、被害届の提出と刑事告訴を行うことで、偽造した人に刑事上の責任を負わせられる可能性があります。

被害届の提出も刑事告訴も所轄の警察署で手続きします。被害届は必ずしも相手に処罰を求めるわけではありません。そのため被害届は受理されやすいですが、刑事告訴は相手に処罰を求める意思表示となるため、警察側も受理するかは慎重にならざるを得ません。一旦預かった状態にしておき、正式な受理を先延ばしにするケースもあります。

刑事告訴をする場合、専門知識のある弁護士などに依頼することで、犯罪の証拠を集めて警察がスムーズに受理してくれる可能性を高められるでしょう。

6 まとめ

遺言書の偽造を行った人に対しては、刑事告訴を行うことで有印私文書偽造罪などに問うことができます。

民事訴訟だけでは、遺言無効や相続欠格のみで、卑劣な行為をした相手に処罰を求められません。

そのため処罰を求める場合、刑事告訴を念頭において準備していく必要があります。

また遺言書の偽造が疑われる場合、筆跡鑑定などの証拠集めから着手する必要があります。弁護士に依頼することで証拠集めや刑事告訴の準備はもちろん、相手と争う際も有利にすすめていけますよ。

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