遺産分割協議書が送られてきた!対応方法やポイントを弁護士が解説

監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
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相続が発生しても、遠方に住んでいるなどの理由で手続きを他の相続人に任せているケースもあるでしょう。
そういった際に司法書士や弁護士から、遺産分割協議書が送られてくることがあります。
協議書が納得できる内容であれば、問題ありませんが「突如、書類だけ送られてきた!」といった場合は、相手に都合がいいような内容になっていることも珍しくありません。
本記事では、遺産分割協議書が送られてきた際の対応方法や注意点について解説します。
1 遺産分割協議書とは
そもそも遺産分割協議書とは、相続が発生した際に相続人全員で話し合いを行ったうえで全員が同意した内容を記載した書類です。
どの遺産を誰が、どのような割合で受け取るのかが記載されています。
1-1 相続人全員の参加が基本
住居地や仕事の都合でどうしても遺産分割協議に参加できない人もいるでしょう。遺産分割協議は相続人全員での話し合いを原則としているため、事情があって参加できない人には電話連絡などで本人の意思を確認するのが通常の流れです。
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1-2 「突然送られてきた!」というケースは異常
上述したように、遺産分割協議書は事前に相続人全員の意思確認が前提となっているため、自分が相続人である場合は「突然送られてきた!」という状況そのものが異常事態です。
2 遺産分割協議書が送られてきた場合の対応
異常事態ではあるものの遺産分割協議書が突然送られてくることは決して珍しい話ではありません。もしそういった状況になったら、落ち着いて下記のように対応していきましょう。
2-1 中身をしっかり確認する
まずは中身を入念に確認しましょう。遺産分割協議書と一緒に相続人関係図などが同封されていることもあります。
送り主が本当に相続人であり、自分とどういった関係なのかを明確にしておくことが重要です。
またなぜ遺産分割協議書だけが突然送付される事態になったのかの経緯や、どういった財産があるのかがわかる書類も同封されているか確認しましょう。疑問点が残る場合、送り主に経緯などを電話で確認してみるのもよいでしょう。
2-2 すぐに署名・押印しない
遺産分割協議書は一度署名・押印すると撤回できないのが原則です。相続人全員が署名・押印すると遺産分割が成立して、内容通りに遺産分割しなければなりません。
納得できていない場合はもちろん、よく内容を理解しないまま署名・押印するとあとから困ることになる可能性があります。
そもそも「突如送られてきた!」など、自分がまだ意見を述べていないようなケースでは、いったん立ち止まってよく考えましょう。
2-3 もし署名・押印してしまったら
上述したように署名・押印すると原則撤回できませんが、下記のような理由がある場合は取り消せる可能性があります。
- 相続人全員で遺産分割協議が行われていない
- 遺産分割協議書に含まれていない遺産が見つかった
- 遺贈がされていた
- 協議書の内容に詐欺があった
上記のような疑いがある場合は、弁護士に相談するなどして取消を主張していくこともできます。
3 送られてきた遺産分割協議書を見るポイント
専門家でない限り、突如送付されてきた遺産分割協議書を見てもポイントがどこかわかりにくいでしょう。
どの点に注意して確認すればよいか解説します。細かい点については弁護士などの専門家と一緒に確認をするのをおすすめします。
3-1 不動産の評価方法は「時価」か
相続財産に不動産が含まれている場合、その不動産の評価額をどのように算出してあるか確認しておきましょう。不動産の評価方法は、主に下記の3つがあります。
時価評価(実勢価格) |
不動産業者に算定してもらう価格で、下記2つの方法よりも高額。裁判や法律の場面では時価評価が使われる。 |
固定資産評価 |
固定資産税を算出する際の基準金額。時価評価の70%ほどになることが多い。 |
路線価 |
国税庁が毎年定める路線価をもとに算出。 |
ポイントは時価評価で価格を算出しているかどうかです。固定資産評価は時価評価よりも大幅に金額が低いこともあるため注意が必要です。
固定資産評価をもとに代償分割(不動産を相続する人が、他の相続人へ代償金を支払う分割方法)している場合、不動産を相続する人が大きく得をして代償金を受け取る人は損をしてしまうことになります。
法律がかかわる遺産分割では時価評価をもとに計算していなければなりません。
相続人A、B、Cはそれぞれ1000万円ずつが法定相続分です。しかしAはすでに500万円の生前贈与があるため、その分を差し引いて考えます。よって今回の場合、2500万円は下記のように分割されます。
- A:500万円
- B:1000万円
- C:1000万円
難しいのは特別受益者がいるかどうかは、協議書のみからではわからない点です。
生前贈与の有無がわからなければ持ち戻しを主張できません。方法としては、相続人であれば被相続人の銀行口座の取引明細を取得できるので確認しましょう。
相続人の誰かに大きな額の送金などがあれば、生前贈与があった可能性があります。
【関連記事】相続財産の調査とは?相続不動産の調査を弁護士が徹底解説!
3-2 寄与分が大きすぎないか
被相続人の生前に家業を無償で手伝っていたり、療養介護を行ったりなど特別な貢献をした相続人は法定相続分以上に財産を相続できる「寄与分」という制度があります(民法904条)。
もし送られてきた協議書に寄与分についての記載があれば下記の点を確認しましょう。
- 寄与分を受け取る相続人は被相続人に対して本当に「特別な貢献」を行ったのか
- 寄与分の額には合理性があるか
そもそも寄与分は認められるのが難しい制度です。
寄与分の要件にある「特別な貢献」とは、被相続人との関係性から通常期待されることを超える行為です。
「同居していた両親の療養介護を行った。」といったことでは「親の面倒を見るのは当然のこと。」などと認めてもらえないことも多いです。
また貢献については「対価を受け取っていないこと」や「長期間継続していた」ことも認められるポイントになります。ただし寄与分に対して異議することは感情的なトラブルになりやすいため、できるだけ弁護士などの専門家と相談しながらすすめるのが無難です。
【関連記事】寄与分の計算方法とは?相続手続きで知っておきたい具体例を確認
3-3 生前贈与を受けた人がいるか(特別受益者)
遺産分割の原則は法定相続分です。しかし相続人の中に生前贈与など特別受益者がいた場合は話が変わってきます。
特別受益者がいた場合は、贈与を受けた額が遺産分割に考慮されているかを確認しましょう。
生前贈与は相続分の前渡しと捉えられ、相続分の算定の際には特別受益額分を持ち戻して考えます(みなし相続財産)。
たとえば相続人3人の子A、B、CについてAのみ生前贈与を500万円分受けていたとします。遺産が現金で2500万円であった場合、法定相続分で分けると下記のようになります。
〇みなし相続財産
2500万円(遺産額)+500万円(Aへの生前贈与)=30000万円
※遺贈の場合はみなし相続財産に含めない
【関連記事】特別受益の持ち戻しとは?持ち戻し免除との違いや期間を解説
4 まとめ
遺産分割協議書は相続人全員が話し合って作成するのが原則であり、意見を述べていないにもかかわらず協議書のみが突然郵送されてくることは本来の形ではありません。
もし突然協議書が送られてきたら、中身をしっかり確認してすぐに署名・押印しないようにしましょう。
内容を確認する際は、不動産の分割方法や特別受益者の考慮などについてはとくに注意が必要です。複雑で専門的な相続については、弁護士に相談しながら内容の確認や対応をすすめるのも有効な方法です。
いきなり送られてきた遺産分割協議書への対応に困った際は、お気軽に弁護士に依頼してみましょう。
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