刑事と民事の違いは?それぞれの特徴や両方が問題となるケースについて弁護士が解説
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
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日常生活の中で、ニュースやドラマで「刑事事件」と「民事事件」という言葉を耳にする機会は少なくありません。
しかし、これらの言葉が指す具体的な意味や違いについて、詳しく理解している方は意外と少ないのが実情です。
刑事事件は国が介入し、犯罪の有無を判断し、必要に応じて罰を与えるものです。
一方、民事事件は個人間のトラブルや権利の主張に関わるもので、主に賠償や権利の確認などが争点となります。
これら二つは、法律上の手続きや対象、目的が大きく異なります。
この記事では、専門家である弁護士の視点から、刑事と民事の根本的な違いを、基本的な概念から始めて、それぞれの特徴、進め方、影響について初心者でも理解しやすいように解説します。
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1 刑事と民事の違いは?
1-1 事件には刑事事件と民事事件がある
事件には刑事事件と民事事件があり、その違いは法律や争点の対象によって表すことができます。
刑事事件の場合、対立するのは国家権力(警察や検察)と被疑者(あるいは被告人)であり、中心的な問題は被疑者の有罪か無罪かが争われます。
国家権力が犯罪の疑いを持つ個人に対して、法的な手続きを通じて罪の有無を明らかにしようと試みるのが特徴です。
一方で、民事事件においては、争いは個人または法人同士の間で発生し、主に権利や義務の存在について争われます。
個人間や法人間の契約違反、損害賠償請求、権利侵害などが主に取り扱われます。
ただし、交通事故のようなケースでは、同じ事案が刑事事件としても、民事事件としても扱われる可能性があります。
このような場合、被疑者や当事者は専門知識を持つ弁護士に相談し、適切な法的対応を計画することが重要です。
1-2 『事件』とは
「事件」という言葉には、様々な意味合いがあります。
一般には、世間の注目を集めるような出来事や、問題となる事柄、特に重大で周囲に悪影響を及ぼす出来事などが「事件」として認識されることが多いです。
その性質上、人々の興味を引きやすく、しばしばニュースで取り上げられるような内容を指します。
法令用語や行政用語としての「事件」は、これとは異なる意味合いを持ちます。
官公庁では、特定の個別の手続きを「事件」と呼び、それぞれに事件番号を付けて管理しています。
例えば、住民票の請求、情報公開請求、許可申請、戸籍訂正申立て、損害賠償請求、犯罪捜査などがこれに該当します。
これらはすべて、特定の事柄や案件に対する公的な手続きとして扱われ、「事件」という名称で区別されます。
多くの人々が「事件」と聞いたとき、最初に思い浮かべるのは、犯罪が発生し警察が捜査に乗り出す「刑事事件」のことかもしれません。
しかし、裁判所ではこの認識よりも広い範囲で「事件」という言葉を使用します。
刑事事件だけでなく、様々な種類の申立てや手続きが裁判所において「〇〇事件」と命名され、それぞれ特有の扱いを受けるのです。
このように、裁判所における「事件」という言葉は、幅広い事柄を包括的に指すため、その用語の範囲と意味を正しく理解することが重要です。
1-3 刑事事件(刑事裁判)と民事事件(民事裁判)の違い
「刑事事件」と「民事事件」、これら二つの事件の主な違いは、裁判の当事者が誰であるかに基づいています。
「刑事事件」では、国家権力(警察や検察)が被疑者(被告人)と争われます。
この場合、警察や検察が捜査を行い、殺人、傷害、窃盗、痴漢などの犯罪行為に対して刑罰を科すか否かを決定する裁判が行われます。
一方、「民事事件」では、争いは個人同士、あるいは個人と法人の間で発生します。
民事事件には、貸したお金の返済問題、交通事故に関する損害賠償請求、不当解雇、不倫による慰謝料請求などが含まれます。
この場合、権利を主張する側が原告となり、裁判によってトラブルの解決を図ります。
「刑事事件」と「民事事件」の共通点は、最終的には裁判所の判断によって事件の解決や決着が図られる可能性があることです。
また、裁判に至る前に事件が解決するケースも存在します。しかし、基本的な考え方や手続きの方法には大きな違いがあります。
これらの事件に巻き込まれた際に適切に対処するためには、それぞれの特徴や解決方法に関する知識が必要です。
2 刑事事件(刑事裁判)とは?
2-1 国が捜査して罪を弾劾するもの
刑事事件(刑事裁判)は、犯罪に関与したと疑われる人に対して、国(検察官)が刑罰の適用を裁判所に要求するものです。
重要なのは、この裁判の焦点は「加害者と被害者の間の問題」ではなく、被害者に代わって国が「どのように責任を追求するか」にあるということです。
そのため、被害者への賠償についても、刑事裁判の主要な焦点とはなりません。
刑事事件に関する一般的な悩みには、不起訴を求めたい、前科を避けたい、逮捕や勾留をされたくない、刑罰を軽減したい、執行猶予を希望する、などといったものがあります。
また、被害者との示談や賠償、謝罪などの「被害者対応」は民事上の問題として扱われますが、刑事処分の結果にも大きな影響を与えるため、通常は刑事事件の相談の一環として取り扱われます。
しかし、損害賠償や慰謝料、示談金の支払いなどが主要な問題となるケースは、民事事件の範疇に入ります。
2-2 主に刑法、刑事訴訟法の手続きで進められる
刑事事件をどのように取り扱うかは、主に「刑法」と「刑事訴訟法」によって定められています。
刑法は、さまざまな犯罪とそれに対する刑罰を規定した法律です。
これにより、個人の行為がどのような場合に犯罪と見なされ、どのような刑罰が科せられるべきかが決定されます。
ただし、刑法のみならず、他の法律や条例でも刑事罰が設けられており、これらに違反する行為も刑事事件の対象になります。
犯罪の疑いがある者に対して、有罪か無罪かを判断し、有罪であれば適切な刑罰を決定するものが刑事事件です。
刑事訴訟法は、このような刑事事件の手続きを具体的に定める法律であり、刑事訴訟の流れや方法、関与する各機関の役割と権限などを規定しています。
これら二つの法律に基づいて、刑事事件は進行します。刑法が「何が犯罪か」および「犯罪に対する刑罰は何か」を定めるのに対し、刑事訴訟法は「その犯罪と刑罰をどのように審理し決定するか」を定める役割を担っています。
このため、刑事事件に関与する全ての当事者や関係者は、これらの法律の枠組み内で行動する必要があり、法律に定められた手続きに従って事件が進められます。
2-3 裁判で有罪が確定するまでは犯罪者ではない
「刑事事件」は、個々の国の法律に違反したかどうかを判断するもので、裁判で有罪判決が下された場合、その人は犯罪者と見なされ、適切な刑罰が科されます。
よって、裁判で有罪が確定するまで、法的には犯罪者とは見なされることはなく、「罪を犯した疑いを持つ被疑者」として扱われなければなりません。
しかし多くの場合、逮捕された人が実際に罪を犯していることや、罪を認めているケースが多いため、マスコミの報道を通して、逮捕されただけで一般人が被疑者を犯罪者と見なす傾向があります。
しかし、このような見方は、近代司法の原則に反しており、冤罪という誤った結果を生む原因にもなります。
明らかな現行犯の場合を除き、被疑者が犯行を否認している場合は特に、マスコミの報道に対して疑問を持つ必要があります。
警察や検察がどんなに有罪と確信して逮捕しても、その後の調査で起訴が難しいと判断されると、不起訴処分になるケースも少なくないからです。
3 民事事件(民事裁判)とは?
3-1 民事事件とは私人同士のもめごと
「民事事件」は、主に個人同士、または法人間の紛争に関わる問題を指します。
金銭トラブルが中心となることが多く、代表的な例としては、離婚や遺産相続における財産分与、交通事故における損害賠償の交渉などが挙げられます。
民事事件では、訴訟の当事者が個人に限らず、法人が関与することも珍しくありません。
例えば、家賃滞納に関する問題で管理会社が住人に対して訴訟を起こす場合も民事事件に該当します。
また、国家賠償裁判のように国や地方自治体を相手に損害賠償を求める訴訟も、広義には民事事件に含まれます。
民事事件に関する一般的な問題には、損害賠償や慰謝料の請求、貸したお金の返済問題、交通事故における示談交渉、離婚や相続に関連するトラブル、不当解雇の主張などがあります。
これらは、基本的に私人間の権利と義務の関係に関わる問題です。
犯罪に関連する事案であっても、被害者が加害者に対して損害賠償や慰謝料を請求する場合、または加害者が被害者との間で示談を図ったり賠償を行ったりする場合は、民事上の問題として取り扱われます。
たとえ詐欺犯が逮捕された場合でも、被害者が騙し取られたお金を回収するには、民事訴訟を通じて請求する必要があります。
3-2 主に民法、民事訴訟法の手続きで進められる
民事事件(民事裁判)は、個人同士、企業同士、あるいは個人と企業間など、私人間の紛争を解決するための法的手続きです。
民事裁判は、これらの紛争において、どちらの主張が妥当か、責任の所在や程度はどのようなものかを裁判所が決定する場のことを指しています。
民事事件においては、主に「民法」と「民事訴訟法」が適用されます。
「民法」とは、国や行政以外の個人・団体である私人間の関係を取り決める私法の基本法で、人々の日常生活の中での権利と義務の関係性について定めています。
一方、「民事訴訟法」は、個人間で発生した権利や義務に関する争いに対し、裁判所への訴え提起を可能とする法律です。
4 刑事と民事、両方が問題となるケースとは?
4-1 刑事と民事、二度訴えられるケースも
同一の事件が原因で発生する「刑事事件」と「民事事件」は、それぞれの根拠となる法律や手続きが異なります。
一般的に警察による逮捕が伴う事件は、主に「刑事事件」として扱われますが、これに加えて被害者から「民事事件」として訴えられる可能性もあります。
特に、被害者が存在し、その結果として何らかの損害が生じている場合は、刑事と民事の双方で問題が生じうるのです。
被害者は、犯罪行為によって受けた身体的な傷害や精神的苦痛に対して、刑事手続きでは賠償関係は解決されることはありません。
たとえ罰金刑に処されたとしても、その罰金は国庫に納められるものであり、被害者への賠償金としては扱われないのです。
しかし、被害者は加害者に対して損害賠償を請求する権利を持っています。
このため、国がどのような刑罰を科すかという刑事上の問題と、加害者と被害者間に生ずる賠償問題という民事上の問題は、別個に扱われることになっています。
そのため、刑事事件が終了した後も、被害者は損害賠償や慰謝料などの民事上の請求権を放棄しない限り、それらを請求することが可能です。
4-2 刑事と民事の両方が問題となる事件
交通事故は、一般的に「刑事事件」と「民事事件」の双方で訴えられる可能性が高い典型的なケースと言えます。
交通事故により発生した経済的な損失に対する補償を要求することは、民事事件として扱われます。これには被害者への損害賠償が含まれます。
一方で、交通事故により被害者が死亡したり重傷を負ったりする場合、これは業務上過失致死や業務上過失傷害などの刑事事件としても扱われる可能性があります。
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ただし、傷害や詐欺など他の犯罪とは異なり、交通事故による刑事事件では、裁判での判決が下されるまでの間、被告が留置場や拘置所に拘留されることは一般的ではありません。
しかし、交通事故による民事事件としての損害賠償責任と同時に、刑事事件として国によって科される刑罰両方が加害者に課される可能性があります。
刑事事件と民事事件は、その目的と手続きの内容が全く異なるため、同じ事件に関して両方の手続きが並行して行われることが可能であるからです。
また、刑事裁判と民事裁判において、同一の事実について異なる認定がされることもあるのです。
4-3 刑事だけではなく民事となるリスク
刑事事件に加えて民事訴訟にも巻き込まれる場合、解決が長引くリスクが伴います。
民事訴訟では、被告が何も反応しない場合、通常、原告の主張が認められたと見なされ、それに基づいた判決が下される傾向があります。
そのため、被告は返答や反論を行う必要があり、訴訟への積極的な対応が求められます。
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また、刑事事件において示談が成立して解決したとしても、民事上の問題が完全に解決しているわけではない場合があります。
特に、示談が適切に行われていない場合、被害者からさらなる損害賠償を請求されることで、二重に支払いを行うリスクが生じることもあります。
このような状況を避けるためには、弁護士に示談交渉をしてもらうことが推奨されます。
弁護士による適切な示談交渉は、刑事事件の解決だけでなく、民事上の問題にも対応し、長期化するリスクや二重払いのリスクを低減するのに役立ちます。
4-4 民事での訴訟を防ぐには
民事事件における訴訟を未然に防ぐためには、刑事事件の処理過程において適切な示談を行うことです。
それによって民事上の損害賠償問題も同時に解決させることが効果的なのです。
示談は、双方の当事者が合意に達することを意味しています。
示談交渉の過程で損害賠償や精神的苦痛に対する慰謝料を含む和解金を決め、金銭的な問題を解決するのです。
具体的には、示談書には、損害賠償の支払いによって全ての金銭的問題が解決され、双方に追加の債権債務がないことを明確にするための記述を含めることが重要です。
このような手順により、示談が成立すれば、後に民事上の訴訟が提起されるリスクを軽減または排除することが可能になります。
5 まとめ
この記事では、刑事事件と民事事件の基本的な違いと、それらがどのように法律によって取り扱われるかについて詳しく掘り下げました。
刑事事件は国家権力と個人との間の争いであり、犯罪の有無や刑罰の適用を決定します。
これに対して、民事事件は個人同士、または個人と法人間の紛争であり、主に権利と義務の問題に焦点を当てています。
ただし、交通事故のようなケースでは、刑事上の責任と並行して、民事上の損害賠償責任も生じることがあります。そのため、それぞれに適切な対応が必要であることを理解することが重要です。
この記事を通じて、刑事事件と民事事件の違いを深く理解し、実際にこれらの問題に直面した際の対処法を身につけることができればと思います。
もし、刑事事件と民事事件においてお困りの状況であれば、法的枠組みと手続きを適切に理解し対処できる弁護士に相談することを強くおすすめします。
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ただいま鋭意準備中です。
何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
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