死亡事故の賠償金はいくら|相場と増額方法を弁護士が解説
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
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弁護士 大隅愛友
慰謝料の増額、後遺障害認定のサポートを中心に、死亡事故から後遺障害、休業損害の請求に取り組んでいます。
交通事故の被害者救済のために、積極的に法律・裁判情報の発信を行っています。
全国からご相談を頂いております。ご希望の方はお電話またはwebでの無料相談をお気軽にご利用ください。
この記事でわかること
- 死亡事故の賠償金の種類(慰謝料、逸失利益など)
- 死亡事故の賠償金の相場、計算方法
- 交通事故の賠償金額の増額事由
- 交通事故の賠償金の減額事由
- 死亡事故を弁護士へ依頼するメリット
大切な家族を死亡事故で突然失うことは、遺族にとって身を切られるようなつらい体験です。
けれども、遺族は悲しみに暮れる間もなくさまざまな手続きをしなくてはなりません。その一つが、死亡事故の賠償金の請求です。
死亡事故の賠償金には種類があり、また手続きの説明もわかりにくく「何をどのように請求したらいいのか」と、とまどうという人も多いのではないでしょうか。
また、死亡事故の場合、賠償金額が高額となり、加害者の任意保険会社との交渉・裁判が必要となるケースが多いといえます。
本記事では、死亡慰謝料や逸失利益などの死亡事故の賠償金の種類をはじめ、賠償金の相場や増額できる方法などについてわかりやすく解説します。
1 死亡事故の賠償金の種類
賠償金は、被害者が死亡したことによってかかった費用や精神的な苦痛に対して支払われるお金の総称です。
交通事故の賠償金には、以下のような種類があります。
・死亡慰謝料
・死亡逸失利益
・葬儀費用
・入通院医療費
・治療関係費(入院雑費、入通院交通費など)
・休業損害
この中で、死亡事故のみに発生する賠償金は、以下の3つです。①、②は金額が非常に高額になり、保険会社との交渉・裁判が必要となるケースが多いので注意しましょう。
①死亡慰謝料
②死亡逸失利益
③葬儀費用
1-1 死亡慰謝料
死亡慰謝料とは、死亡事故によって精神的な苦痛に対して支払われる慰謝料のことをいいます。
通常の交通事故の慰謝料と比べて非常に高額になることが特徴です。また、慰謝料は、被害者本人のみが慰謝料を請求できるのが通常ですが、死亡事故の場合、遺族が自らの精神的苦痛分として慰謝料を請求することが認められています。
・被害者本人の慰謝料:交通事故で亡くなった被害者を対象とした死亡慰謝料
・遺族固有の慰謝料:交通事故で亡くなった被害者の遺族を対象とした死亡慰謝料
被害者本人の慰謝料
交通事故で命を落とした被害者本人に支払われるのが「被害者本人の慰謝料」です。被害者本人の慰謝料を請求できるのは、被害者の相続人となります。
遺族固有の慰謝料(民法711条)
遺族固有の慰謝料は、被害者を失ったことによって生じた精神的苦痛に対して支払われます。
被害者の配偶者や親、子など、被害者と近い関係の人たちも強い性的苦痛を受けます。このような人たち人特別に認められるのが、遺族固有の慰謝料です。なお、場合によっては内縁の配偶者や祖父母にも認めれることがあります。
【関連記事】死亡事故の慰謝料|死亡事故の相場や弁護士費用を解説
1-2 死亡逸失利益
「死亡逸失利益」とは、被害者が生きていたら稼いだであろう収入のことをいいます。年齢に応じて就労可能年数が変わります。若くしてお亡くなりなった場合、相当高額になり、保険会社と争いになるのが死亡逸失利益です。
死亡逸失利益は、「被害者の基礎収入額(交通事故に遭う前年度の年収)」に「生活費控除率(生きていたら必要であろう生活費の割合)」と「就労可能時間に対応するライプニッツ係数(年々受け取っていたはずであろう収入と、一括で受け取るお金との利益分を調整するための係数)」をかけて求められます。
「被害者の基礎収入額」×「1-生活費控除率」×「就労可能時間に対応するライプニッツ係数」=死亡逸失利益
1-3 葬儀費用
葬儀費用はその名の通り、被害者の葬儀にかかる費用のことを指します。ただし、葬儀費用とみなされるのは以下のもので、全てをカバーするわけではありません(例えば、香典返しにかかる費用は含まれません)。
・通夜
・葬儀
・火葬または埋葬
・法要
葬儀費用で請求できる額は、100万円程度と決まっています(「自賠責基準」の場合)。弁護士に依頼した場合は基準が異なり、請求額の上限は150万円程度とアップします。
2 死亡事故の賠償金の相場、計算方法
死亡事故の賠償金には相場があります。ただし、どの基準をもとに計算するかで金額が大きく変わります。被害者救済の観点からは、裁判基準(弁護士)基準が大切ということを覚えておきましょう。
2-1 賠償金の基準
死亡事故の賠償金を計算する際に使用される基準には、以下の3種類があります。
①裁判基準(弁護士基準):弁護士が慰謝料を計算する際に使用する基準
②任意保険基準:任意保険会社が慰謝料の計算に使用する基準
③自賠責基準:自賠責保険を取り扱っている会社が設定している独自の計算基準
2-2 賠償金の相場と計算方法
ここでは、3つの基準のそれぞれの死亡慰謝料の相場と計算方法について説明します。
①裁判基準の相場と計算方法
裁判基準とは、過去の裁判例を参考に設定された基準のことで、3つの基準の中でも一番高額の慰謝料になる可能性が高いといわれています。
弁護士に慰謝料の請求を依頼すると、弁護士は裁判基準を参考に、被害者本人の慰謝料と遺族固有の慰謝料の合計を計算します。裁判基準による死亡慰謝料の相場は、被害者の属性によって以下のように異なります。
属性 |
相場 |
一家の支柱 |
2800万円 |
母親・配偶者 |
2500万円 |
その他 |
2000万円~2500万円 |
死亡慰謝料は、この相場に加えて
・被害者の年齢
・被害者の年収
・扶養家族
・過失割合
といった情報を考慮して算出します。
②任意保険基準の相場と計算方法
任意保険基準は、各任意保険会社によって異なるうえ、ほとんど公表されていません。けれども、任意保険基準の目安と一般的にいわれている金額を下表にまとめました。
属性 |
相場 |
一家の支柱 |
1,500~2,000万円 |
配偶者・専業主婦(主夫) |
1,300~1,600万円 |
子ども・高齢者 |
1,100~1,500万円 |
任意保険基準においても、扶養家族の有無など個別の事情をもとに算出されます。
③自賠責基準の相場と計算方法
自賠責基準による死亡事故の慰謝料は、400万円と決まっています。
ただし、死亡事故の場合、被害者の過失割合が70%以上になると以下の割合で減額されます。
・70%以上80%未満:20%
・80%以上90%未満:30%
・90%以上100%未満:50%
遺族固有の慰謝料は、支払いの対象となる遺族の人数によって異なります。
・1人:550万円
・2人:650万円
・3人:750万円
亡くなった被害者に扶養家族がいる場合は、上記の金額に200万円がプラスされます。
3 死亡事故の賠償金(慰謝料)を増額させる事由
死亡事故のケースによって、慰謝料が増額されることがあります。賠償金に影響を与える事情としては、①加害者側事情、②被害者の事情の2つの事情があります。
いずれも金額が大きく変わりますので、当てはまる事情があれば積極的に主張を行うべきです。なお、加害者の任意保険会社は賠償金の増額をなかなか認めないため、困ったら弁護士へ相談しましょう。
3-1 加害者側の事情:悪質、無反省、不誠実な態度
加害者の悪質な行為が事故につながったり、被害者や遺族に対して不誠実な態度を取ったりしたとみなされた場合は、慰謝料が増額されます。具体的にどのようなものがあるのか見てみましょう。
ひき逃げ
ひき逃げとは、人をひいたにもかかわらず、その人を置いて現場を立ち去る行為をいいます。ひき逃げは、被害者の救護義務違反を怠ったとして犯罪行為とみなされます。
【関連記事】当て逃げはすぐに警察へ。法的な責任と賠償金を弁護士が解説
[無免許運転]
無免許運転は、免許を持たずに自動車などを運転することで、道路交通法64条に違反する行為です。
[著しいスピード違反]
車のドライバーは、制限速度を守って走行しなければなりません。けれども、そのルールを破り著しいスピード違反をし、人を死なせた場合は悪質な行為とみなされます。
【関連記事】速度違反・スピード違反の点数は?反則金や罰金、手続きも解説
[飲酒運転]
飲酒運転は非常に危険な行為であり、飲酒の程度によって、責任が重くなります。
【関連記事】飲酒運転の交通事故の示談金の相場|慰謝料の金額を増額できます
[事故後の遺族への暴言などの不適切行為」
被害者を失い悲しみに暮れている遺族に対して、暴言を吐いたり脅したりした場合、遺族はさらなる精神的苦痛を味わいます。この場合も、加害者側の事情により慰謝料が増額される可能性が高まるでしょう。
3-2 遺族側の事情:精神的なショックによるPTSD
遺族側の事情としては、被害者を交通事故で失ったことによる精神的なショックが挙げられます。
遺族の中には、被害者を失ったショックによってPTSDを発症する人もいます。2005年に実施された交通事故遺族に関する調査では、対象者のPTSDの有病率は75.5%であったということです。
・参照:『交通死亡事故遺族の全般的精神健康及び複雑性悲嘆とその関連要因』
4 死亡事故の賠償金の減額要因(過失相殺)
死亡事故の慰謝料が増額するケースがある反面、事情によっては減額されてしまうこともあります。
減額する要因として挙げられるのが、過失相殺です。
過失相殺とは、加害者から見て、賠償金から被害者の過失割合を差し引く(相殺する)ことをいいます。もらい事故を除く交通事故においては、加害者が100%責任を負うということはほとんどありません。
例えば、横断歩道のないところを渡っていて車にひかれた場合は、被害者側にも過失があるとみなされます。その場合は、過失相殺によって慰謝料は減額されます。
5 死亡事故を弁護士へ依頼するメリット
死亡事故に巻き込まれた場合は、迷わず弁護士に相談しましょう。弁護士に依頼するメリットとして、以下の4つが挙げられます。
①裁判基準を基準として交渉が可能
②保険会社への対応を一任できる
③過失割合の問題へも対応可能
④被害者参加についても相談できる
それぞれ詳しく見てみましょう。
5-1 裁判基準を基準として交渉が可能
死亡事故の慰謝料は、裁判基準・自賠責基準・任意保険基準でその金額は異なります。そして、この中で高額の慰謝料を算出する傾向にあるのが、弁護士が用いている裁判基準です。
弁護士は依頼を受けると、裁判基準を用いて慰謝料を計算し、その金額をもとに慰謝料を請求します。
つまり、弁護士に依頼することで、適切な慰謝料を請求できる可能性が高まるということです。
5-2 保険会社への対応を一任できる
死亡事故の慰謝料をめぐり、遺族は保険会社を相手に示談交渉する必要があります。
示談交渉のプロを相手にやり取りすることは、遺族にとって精神的に大きな負担になるのではないでしょうか。弁護士は、遺族に代わって保険会社に交渉します。
弁護士に任せた場合は、交渉する負担が軽減できるとともに、自分たちで交渉するよりも良い結果を引き出すことが期待できるでしょう。
【関連記事】交通事故で保険会社が嫌がること6選|保険会社と対等にやり取りを行うためのポイント
5-3 過失割合の問題へも対応可能
死亡事故の慰謝料で争点となるのが、過失割合の問題です。過失割合は、事故の当事者(または代理人)により示談交渉を経て決められます。過失割合は問題に発展しやすく「この割合には納得できない」というふうに、もめるケースが多々あります。
一度決まった過失割合を素人が変更することは至難の業ですが、弁護士に依頼することで可能になります。
弁護士は、事故現場の状況をはじめ、目撃者の証言やドライブレコーダーの映像などから、その過失割合が適切かどうかを判断します。そして、被害者に不利なものであるという場合は、保険会社にその根拠を示せるというのが理由です。
5-4 被害者参加についても相談できる
被害者参加制度とは、刑事裁判において設けられている制度で、参加した遺族(配偶者や子、親など)は、検察官の横に座り意見を述べたり、証人に対して尋問したりできます。
被害者参加制度は画期的な制度ですが、制度の内容に詳しくない遺族にとって、どのように活用したらいいのか悩むでしょう。弁護士に相談することで、遺族や被害者の思いを裁判に反映させる方法などのアドバイスを受けられます。
6 死亡事故で弁護士の選び方、依頼の仕方
交通事故で被害者が死亡した場合、多くは裁判に発展します。死亡事故の弁護士は、どのように選んだらよいのでしょうか。ここでは、弁護士の選び方と依頼の仕方について解説します。
6-1 加害者側ではなく被害者側の弁護士
選ぶなら、被害者側の弁護に経験のある弁護士を選びましょう。交通事故の弁護士といっても、加害者側の弁護に多くの実績を持つ弁護士もいます。
被害者側の弁護を専門としている弁護士なら、被害者遺族の気持ちに寄り添い、こちらの相談事に対して適切にアドバイスしてもらうことが期待できます。
6-2 裁判対応が可能な弁護士
賠償金が高額になる死亡事故では、保険会社が十分な賠償に応じず、裁判に発展するケースが少なくありません。
裁判に発展した場合、必要な手続きが増えるため、弁護士には手続きを処理するスピードと正確さが求められます。弁護士に依頼する前に、必ず裁判に対応可能かどうか、そして、裁判について実績があるかどうかを確認しましょう。
6-3 被害者参加にも対応可能な弁護士
多くの死亡事故の場合、加害者は現行犯逮捕されその後刑事事件として起訴されます。
刑事裁判では、被害者参加制度が利用できますが、適切に利用するためにも弁護士のサポートは不可欠です。制度に対応可能かどうかについても、忘れないように確認しましょう。
【関連記事】交通事故と被害者参加制度|死亡事故や高次脳機能障害で参加
7 弁護士へ依頼する場合の費用
弁護士へ依頼する場合、気になるのが費用ですよね。弁護士費用は、普通に依頼する場合と、弁護士特約がある場合とでは、支払う金額が異なります。
7-1 弁護士特約が無い場合
普通に弁護士に依頼する場合は、費用の全てを遺族が負担します。弁護士に、正式に依頼した場合にかかる主な費用は以下のとおりです。
・着手金
・日当
・成功報酬
・実費
など
弁護士費用は、損害賠償金額や事案の難易度、各法律事務所の料金設定によって異なります。弁護士費用の相場として一般的にいわれているのは、「損害賠償認容額の10%程度」です。この数字を参考にするとよいでしょう。
7-2 弁護士特約がある場合
弁護士特約とは、賠償金の請求を行う際にかかる弁護士費用を補償することを目的とした、自動車保険の特約のことです。弁護士特約は、任意保険以外にも火災保険に付帯している場合もあります。
もし、保険に加入する際に弁護士特約をつけていた場合は、そこから費用を捻出できる可能性があります。弁護士特約が適用された場合は、上限を300万円として必要な額を受け取ることができるでしょう。
【関連記事】弁護士特約の利用は保険会社が嫌がることなの?3つの理由と対応方法
8 死亡事故の賠償金のよくある質問
8-1 死亡事故の賠償金には税金はかからない
原則として、死亡事故の賠償金には税金はかかりません。なぜなら、賠償金は所得ではなく、交通事故によって受けた精神的ダメージの補償とみなされているからです。
ただし、以下のような例外もあります。
・人身損害保険から支払われた死亡保険金や過失相当分の保険金
・加害者から支払われた過剰な見舞金
など。例外とみなされた場合には、受け取ったお金に対して税金が課せられます。
8-2 死亡事故の賠償金の消滅時効は3年
交通事故の賠償金請求権には時効があります。被害者が死亡した場合、損害が発生した日から3年を過ぎると請求権が消滅します。
ただし、令和2年4月1日より5年に延長され、この日以降に発生した死亡事故の消滅時効は5年です。
8-3 死亡事故の賠償金の分配方法は法定相続によります
亡くなった被害者の慰謝料は、被害者の相続人で分配します。分配の割合は相続人同士で決めることも可能ですが、トラブルに発展することを考えて、法定相続分にそって分配するのが無難でしょう。
子供がいる場合の法定相続分は以下のとおりです。
・子供1人:子供1
・子供2人以上:均等に分配
・配偶者と子供:配偶者1/2、子供1/2
9 まとめ:死亡事故は速やかに弁護士へ相談しましょう!
死亡事故の賠償金の種類や計算方法、増額できる方法などについて解説しました。
死亡事故の賠償金は、利用する基準によって算出される金額が異なります。さらに、場合によっては増額または減額されるということもあります。「適切に賠償金を請求したい」「できるだけ減額は避けたい」というのであれば、弁護士に依頼するのが得策でしょう。
弁護士に依頼することのメリットとして、以下の4つをご紹介しました。
①裁判基準を基準として交渉が可能
②保険会社への対応を一任できる
③過失割合の問題へも対応可能
④被害者参加についても相談できる
死亡事故の場合は、賠償金の請求だけでなく、裁判に必要な手続きなど時間的にも精神的にも負担になることが続きます。
良い弁護士を見つけて自身の負担を軽くし、適切な賠償金を勝ち取りましょう。
慰謝料の増額、後遺障害認定のサポートを中心に、死亡事故から後遺障害、休業損害の請求に取り組んでいます。
交通事故の被害者救済のために、積極的に法律・裁判情報の発信を行っています。
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