長谷川式認知スケールの遺言能力の鑑定とは?遺言書の有効性を見極める方法
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
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有効な遺言書を残すためには、遺言による結果を認識できる「遺言能力」が必要です。
認知症のある人が遺言書を残した場合、その有効性を左右するのは「遺言者に遺言能力がある」と判断できるかどうかです。
そこで、認知症の度合いが遺言能力を有効となるものかを判断するために用いられるのが、「長谷川式認知スケール(HDS-R)」と呼ばれる評価指標です。
長谷川式認知スケールの点数が一定よりも低い場合には、遺言能力がないと判断され、遺言書が無効になることがあります。
▼この記事の結論
・認知症患者でも遺言能力があると認められるケースがある
・長谷川式認知スケールで10点以下だと遺言能力が原則認められない
・遺言書の有効性は医学的
・認知機能低下が危ぶまれる人の遺言は無効にならない対策が大切
この記事では、長谷川式認知スケールとはどのような検査なのかから、遺言能力があると判断されるのはどのようなケースなのか、遺言書の有効性を高める方法まで、詳しく解説します。
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1 認知症患者の遺言書は有効?判断に重要なのは「遺言能力」
遺言書を有効にさせるという法律行為は、遺言能力がある者の残した遺言書にのみ有効となります。
遺言能力とは自分が残した遺言による結果が正常に判断できることであり、認知症が進むことで低下する能力です。
遺言書の有効・無効を左右するのは「遺言能力」の有無であり、遺言能力の程度については医師による治療記録、検査などの資料が大切なものとなります。
なお、認知症患者が残したからといって全ての遺言書が無効になるわけではありません。
有効性については遺言能力の程度や、遺言書の内容、遺言書を残した状況など、さまざま要因を総合的にみて判断されます。
1-1 認知症患者の遺言能力を証明する手段とは?
認知症患者の遺言能力は、複数の記録から証明することができます。
今回ご紹介する「長谷川式認知スケール」は、下記の「医療記録」として重要な役割を果たす判断材料です。
・医療記録
・診察記録
・看護記録
・介護記録
医師や看護師、介護師などとの会話の内容は細かく記録されていることがあり、遺言能力の確認が可能です。
上記のような要素は、遺言能力を証明する、重要な判断材料になりえます。
たとえば医師により「認知症は重度であり、判断能力は高いとはいえない」とコメントが添えられていれば、遺言書の内容が無効であると判断される可能性が高まるでしょう。
2 長谷川式認知スケールとは?遺言書の有効性に重要な理由も解説
「長谷川式認知スケール(HDS-R)」とは、認知機能の推定をするために実施される、知能検査のことです。
認知症を早期発見するため、また進行状況を確認するために活用されるスクリーニングテストの一つであり、医師により実施されます。
医学的な観点での判断要素は、遺言能力を読み取るために重要です。
長谷川式認知スケールでは認知症患者に簡易的な質問をすることで、認知症の進行具合を具体的な数値にして判断することができます。
2-1 長谷川式認知スケールで遺言能力の有無を検査する方法
長谷川式認知スケールでは30点を満点とし、20点未満の場合には認知症である可能性が高いと判断されます。
▼長谷川式認知スケールの点数と判例の傾向
・20点以上:遺言能力が認められることが多い
・15〜19点:状況によって遺言能力が認められる傾向がある
・11〜14点:状況によって遺言能力が認められない傾向がある
・10点以下:遺言能力が認められないことが多い
長谷川式認知スケールをはじめ、遺言能力の有無を確認するためには、主に下記のようなポイントを重視する傾向があります。
・自分の意思をしっかりと伝える力がある
・話題について情報を正しく理解している
・聞いたことについて的確に返答ができる
認知機能検査には長谷川式認知スケールの他にも、「ミニメンタルステート検査(MMSE)」や「DASC-21」「MoCA」などの検査が存在します。
検査結果や本人と関わった医師、看護師、介護師などの意見も総合的に取り入れながら、遺言書の有効性を判断することになるでしょう。
2-2 長谷川式認知スケールの検査内容とは?
長谷川式認知スケールの検査内容はおもに、記憶力に関する項目でできています。
認知症専門外来や物忘れ外来がある病院やクリニックにて、専門家による検査を受けることが可能です。
検査時間はおおよそ10〜15分で、口頭形式で行われます。
・年齢:自分の今の年齢の確認
・日時:今日の日時の確認
・場所:現在いる場所の認識確認
・言葉の記憶:簡単な単語の記憶
・計算能力:簡単な数字の足し引き計算
・数字の逆唱:数字を逆から言う確認
上記のような内容の確認が、主な検査内容です。
医療保険を適用して検査することができるので、遺言書を作成する際にはあわせて検討すると良いでしょう。
3 長谷川式認知スケールの点数以外で遺言能力を判断する基準とは?
長谷川式認知スケールでの点数が11〜19点だった場合など、状況によって遺言能力を判断しなくてはいけないケースもあります。
具体的には、下記のような点が遺言書の有効性を左右することが多いです。
①遺言書の内容
②遺言書の種類
③遺言作成の環境、状況
④記録・証拠
それぞれのポイントごとに、有効・無効になる傾向のあるケースについて、詳しく解説します。
3-1 遺言書の内容
遺言内容は、シンプルであるほど有効になりやすいです。
遺言者の遺言能力に対して問題ない程度に遺言内容がシンプルであることを理由に、認知症の度合いが高くても有効とされた判例があります。
▼遺言内容の例
・シンプル:所有する不動産は兄のAに渡す。不動産以外の財産は弟のBに渡す。
・複雑:所有する不動産のうち半分は兄のA、その半分を弟と妹であるBとCに分割し…
シンプルな文章でまとまっているほど、有効性が高くなる傾向があります。
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これに対して、遺留分を意識して、不動産の評価を含めて詳細な計算が必要となるような複雑な遺言の場合には、遺言能力も高度のものが要求されます。
【関連記事】遺留分は兄弟にはない|その理由と遺留分なしでも財産を相続する方法
そもそも財産の内容がシンプルであれば、遺言書をもとにトラブルへ発展することは少なくなるため、できるだけ生前に整理をしてもらうよう努めるのが良いです。
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3-2 遺言書の種類
遺言書の種類は「公正証書遺言」、「自筆証書遺言」、「秘密証書遺言」の3通りが存在します。
<公正証書遺言の場合>
公正証書遺言として残している場合には、認知症と診断された人の遺言書であっても有効とされることが多いです。
▼公正証書遺言が有効となりやすい理由
・公正証書遺言作成には被相続人本人が公証役場に出向く必要があるから
・専門家である第三者の公証人が被相続人の話をもとに作成するから
・公証役場にて2人の証人が同席しているから
・相続発生時まで公証役場にて保管されるから
公正証書遺言は被相続人のほかに、認知能力のある者が立ち会って作成されます。
被相続人の認知能力が低く遺言が残せない状態であると判断された場合、そもそも公正証書遺言を残すことはできないと判断されるでしょう。
<自筆証書遺言の場合>
自筆証書遺言の場合、被相続人が直筆で遺言書を書き、自宅保管をしていることから、遺言書としての有効性は低くなる傾向があります。
自筆証書遺言の場合には第三者による書き換えや偽造が可能であるため、家庭裁判所にて検認が必要となりますが、有効であるかどうかは別途確認が必要です。
【関連記事】遺言書を検認しないとどうなる?リスクや手続きの方法を弁護士が解説!
<秘密証書遺言の場合>
秘密証書遺言は、公正証書遺言や自筆証書遺言と比べると利用件数が少なく、特別な事情がなければ利用することはお勧めしません。
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3-3 遺言作成の状況、環境
<弁護士や税理士が遺言作成に関与>
遺言作成の際に、弁護士や税理士が関与して作成した場合には、遺言能力が認められる可能性が高くなります。
弁護士や税理士は、法律や税金の専門家であり、依頼者から相談や依頼を受ける際に、本人の判断能力の有無を確認した上で手続きを進めるため、弁護士や税理士に正式に依頼を受けてもらえたという事実は、遺言能力を肯定する事情となります。
<不動産の売却、購入>
不動産を売却、購入する際には、通常、不動産会社を通して行いますが、不動産会社は資格が必要であり、大きなお金が動くことから、本人の判断能力は慎重に確認されます。
遺言作成に近い時期に、不動産会社を通じて、不動産の売却・購入を行った事実は、遺言者の遺言能力を肯定する事情となります。
3-4 遺言能力に関わるその他の記録・証拠
遺言書の種類に関わらず、遺言能力のない者により書かれた遺言書は無効です。
有効性や無効性を証明したい場合には、記録・証拠を集める必要があります。
<病院の治療記録・カルテ>
長谷川式認知スケールは記録として大きく影響しますが、それだけでは足りないという場合には、病院の医療記録・カルテも確認していくことになります。
長谷川式スケールテストに加えてその他の治療記録・カルテに遺言能力が認めれるような記録があれば、有力な証拠となります。
<市役所等の介護認定>
市役所の介護認定も、公的な機関である市役所が判断した記録として重要なものになります。特に、「金銭の管理」、「日常の意思決定」の項目で「全介助」、「一部介助」、「自立」のいずれの判断となっているかが重要です。
<介護施設の介護記録>
介護施設などの介護記録も有力な資料となります。
判例としては、長谷川式認知スケールで10点以下の場合にも、遺言書が有効となったケースがあります。
遺言書の有効と無効それぞれを主張する受遺者がいるのであれば、弁護士を立てて必要な書類を揃え、訴訟にそなえる必要があるでしょう。
4 遺言能力や遺言書の有効性に関するトラブル!どうすれば良い?
遺言書の有効性をめぐり当事者間でトラブルになった場合、当事者どうしで話し合いをして穏便に話に決着をつけられるのがベストなケースです。
遺言書をもとにトラブルになるケースとは、当事者の一部が遺言書を認めたい一方で、一部が従いたくないケースです。通常は、遺言書でたくさん遺産を受け取れる人は遺言の通りを主張し、そうでない人は遺言無効を主張します。
話し合いでは話がまとまらない、という場合には、下記のように対応する必要があります。
・遺言の有効性を否定する相続人・受遺者がいる場合:無効を主張する者が家庭裁判所で遺言無効の調停を行う必要があります。調停でまとまらない場合には、地方裁判所で遺言無効の訴訟が必要となります。
・当事者全員が遺言を無効とすることに合意した場合:遺産分割協議で話し合う
遺言者の意思を尊重するために存在する遺言書ですが、当事者全員が遺言書に従いたくないという場合には、遺産分割協議を行い、遺言と異なる内容の相続を行います。
なお、遺言を無効とすることには相続人・受遺者全員が同意しても、遺産分割の内容で合意ができない場合には、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てて解決を図ることになります。
【関連記事】遺産分割調停の流れ~メリット・デメリット等を弁護士が解説
5 【まとめ】長谷川式認知スケールの遺言能力結果が重要
長谷川式認知スケールは、遺言者の認知度をはかるための有力な手段のひとつです。
5-1 遺言作成の場面
遺言者本人が認知機能検査を受けられる状態であれば、検査のタイミングで公正証書遺言を作成することが、遺言書の有効性を最大限に高める方法になるでしょう。
また、弁護士や税理士などの専門家に相談・依頼しながら作成することで、より有効性を高めることができます。
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5-2 遺言無効の場面
遺言者本人がすでに亡くなられている場合には、遺言能力の有無を証明するための資料を集める必要があります。
長谷川式認知スケールをはじめ認知機能検査結果の有無や、通っていた病院での医療記録、その他介護記録などが、証明材料として有力です。
遺言書が有効であるかどうかは、認知症の有無や程度が証明できるかどうかによって左右されます。
有効・無効どちらを主張したい場合にも、証明するために有効な要素を取得できるよう動いてみてください。
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