遺言書の筆跡が明らかに違う!立証方法や法的手続き、偽造のリスク、対処法について弁護士が解説
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
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遺言書は、相続の際にどのように遺産を分配するかを定める文書として重要な役割を果たします。
そのため、遺言書の筆跡が故人本人のものでないと疑われる場合、遺言書の真正性に疑念が生じ、遺産相続において深刻なトラブルを引き起こす原因となります。
遺言書が偽造された可能性があり、家族間での紛争や法的な争いを招く可能性があるからです。
<①遺言が有効な場合>
遺言の内容をベースとして、遺留分侵害を受けている者は遺留分のみ請求ができることとなります。
なお、兄弟姉妹が相続人の場合、兄弟姉妹には遺留分が認められていないため、兄弟姉妹は相続財産を一切受け取れない事態もあり得ます。
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<②遺言が無効な場合>
遺言の内容は意味をもたず、法定相続分をベースとした遺産分割となります。
本記事では、相続問題に詳しい弁護士の視点から、遺言書の筆跡が異なる問題に対する法的な知識や対処法を解説し、遺産相続を円滑に進めるための参考となる情報を提供します。
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1 筆跡が明らかに違う『遺言書』とは
1-1 偽造された可能性がある遺言書とは
遺言書は、遺言者である故人が生前に残しておきたい意向を法的に記録するための重要な文書です。
特に自筆証書遺言においては、遺言者自身が直接文書を記述し、日付と署名、押印することが求められています(民法第968条1項)。
【関連記事】遺言書の書き方~自筆で書く自筆証書遺言のポイントと注意点を弁護士が解説
しかし、遺言書の筆跡が遺言者のものとは異なる場合、その遺言書の真正性が問題視されることがあります。
遺言書の筆跡が他人のものである、あるいは、遺言者が記述したものであっても、訂正箇所の筆跡が他人のものである場合は、遺言書が偽造された可能性があります。
1-2 偽造された自筆証書遺言は遺言者が同意していても認められない
偽造された自筆証書遺言とは、遺言者以外の第三者が遺言者の名前を不正に使用して作成した遺言書を指してます。
パソコンで打たれた本文や、他人によって代わりに書かれたものは、法律上無効とされています。たとえ遺言者が同意していても、他人が書いた遺言書は認められません。
代書による遺言書は明らかに無効であり、これを裁判所に提出しても受け付けられないのです。
1-3 偽造が疑われる場合は裁判所の判断が必要
遺言書の偽造が問題となるのは、遺言書が遺言者本人によって書かれたものであるとされているケースです。
しかし、遺言者は既に亡くなっているため、本人に確認することはできません。
筆跡鑑定を行っても、真偽の判断は容易ではなく、偽造が疑われる場合は最終的には裁判所の判断を仰ぐしかありません。
以上のように、遺言書の筆跡が異なるという問題は、遺産相続において重要な法的問題となります。
2 遺言書の筆跡が違う場合の立証方法
2-1 筆跡鑑定書
自筆遺言の本文は遺言者自身によって記されなければなりません。筆跡は、その文書が遺言者本人によって書かれた証拠となります。
しかし、筆跡が異なる場合には、筆跡鑑定を通じて遺言書の真正性を証明する必要が出てきます。
遺言書の筆跡が問題となる場合、裁判において「筆跡鑑定書」を提出することがあります。
筆跡鑑定は、遺言書が遺言者本人によって書かれたものかどうかを判断するための科学的な方法によって分析を行います。
しかし、鑑定の結果が必ずしも裁判所に受け入れられるわけではありません。
鑑定結果は明確な証拠とは言えず、時には原告と被告双方が自らに有利な鑑定結果を提出することもあるため、筆跡鑑定の結果は必ずしも決定的なものになりません。
筆跡は個人の年齢や健康状態など多くの要因によって変化するため、筆跡鑑定においても明確な結論が得られない場合があるのです。
ただ、筆跡鑑定において明確な結果が得られない場合でも、遺言書の真正性を確認するためには、他の方法を考えておく必要があります。
例えば、遺言者が過去に書いたと確認できる文書を集め、それらの筆跡と遺言書の筆跡を比較することも一つの方法となります。
2-2 遺言書に押してある印鑑
自筆遺言を作成する際には、遺言者が印鑑を押すことが法的な要件となっています。
この印鑑は実印である必要はなく、いわゆる認印や拇印、指印であっても法律的には認められています。
しかし、遺言書に偽造が疑われる場合、どの印鑑が使用されているのかは重要なポイントとなります。
通常、他人の印鑑を押すことは考えにくく、また普段使わない印鑑を使用するのも不自然です。もし遺言書に本人が通常使用していない印鑑が押されている場合、遺言書が偽造された可能性が考えられます。
しかし、実印でない印鑑であっても、その印鑑が遺言者によって他の機会にも使用されていたことが確認できれば、遺言書の真正性の証拠ともなります。
この確認のためには、遺言者が以前にその印鑑を使用した別の文書を探す作業が必要となります。
ただ、遺言者が通常使用している印鑑であっても、その印鑑が他の人にも利用できる状態で保管されていた場合、遺言書が偽造された可能性が生じます。
特に、印鑑を使用できる他の人が偽造の疑いを持たれる状況である場合、偽造されたことを証明するために役立ちます。
2-3 病気や症状のわかるカルテ・介護記録など
遺言書の作成時に遺言者の健康状態が重要な要素となります(遺言能力)。
特に、遺言者が病気や認知症を患っていた場合、その状態が遺言書の真正性を問う重要なポイントになります。
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遺言者が病気や認知症でありながら、遺言書が明瞭な文章で記されている、訂正箇所が無く、また文字に震えが無い場合、これは遺言書が他人によって作成された可能性が考えられます。
遺言書は、通常、遺言者自身の手によって記されるものであり、その筆跡や内容は遺言者の健康状態を反映するものと考えられます。
さらに、遺言者が重度の認知症を患っていた場合、遺言書が偽造されていなかったとしても、遺言者の意思能力が認められない可能性があります。
このような状況では、遺言書の有効性が疑われることとなり、法的に無効とされる可能性があります。
このような場合には、遺言者の医療記録や介護記録を確認することが重要となります。
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これらの記録によって、遺言者の健康状態や認知機能のレベルを確認し、遺言書の真正性や遺言者の意思能力を評価することが可能となります。
2-4 遺言内容の不自然さ(動機)
遺言書の内容が遺言者の意志を正確に反映しているかどうかは、その真正性を確認する上で極めて重要な要素です。
特に注目すべきは、遺言書が特定の人に明らかに有利な内容で記されている場合です。
遺言者とそれぞれの人物との関係性、そして他の関係者との関係性は、遺言内容の妥当性を検証する際の重要な参照ポイントとなります。
遺言書の内容は、基本的には遺言者の主観的な意向を反映するものであり、外部から見て常に合理的とは限りません。
遺言者が特定の親族を他の親族よりも優遇する場合、それが遺言者の個人的な意向に基づくものである可能性があるからです。
しかし、異なる内容の遺言書が複数存在し、その内容が相互に矛盾する場合、特に問題が生じる可能性があります。
例えば、1通目の遺言書の内容が合理的で、人間関係に合致しているのに対し、2通目の遺言書の内容が合理的でない、または人間関係に合致していない場合、遺言書が偽造された可能性が高まります。
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2-5 遺言書を預かった状況、保管状況
遺言書を預かった状況は、具体的な状況や時期、そしてその状況の自然さは、遺言書の真実性を検証する際の重要なポイントとなります。
自筆遺言書は通常、遺言者から直接受け取った人、特に遺言書で有利に扱われる人物が保管し、その後検認を申し立てるのが一般的です。
例えば、遺言者と同居していて、親密な関係にあり、遺言者から直接「遺言書」と明記された封筒を受け取ったという状況は、比較的自然と見なされるかもしれません。
しかし、遺言者と同居していない、あるいは親密な関係でないにも関わらず、遺言書の内容が明らかに有利であるならば、疑念を抱いてもおかしくはありません。
しかも、「遺言書を保管していた」「遺言者の死後に偶然見つけた」といった状況であるならばなおさらです。
3 遺言書の筆跡が明らかに違う場合の法的手続きについて
3-1 調停の申立て
遺言書の有効性に疑問が生じた場合、関係者は家庭裁判所にて遺言無効確認調停を申し立てることが可能です。
調停の目的は、遺言書の筆跡が違うことを前提にして、関係者間で遺言を無効にするかどうか合意を得ることにあります。
ただし、合意ができない場合、家庭裁判所は遺言書の有効性に関する判断を行いません。
そのため、調停は不成立で終了し、更なる法的手続きが必要となります。
3-2 訴訟の提起
家庭裁判所における調停が不成立に終わった場合や、遺言書の有効性について明確な判断を得たい場合には、地方裁判所への遺言無効確認訴訟の提起が考えられます。
この法的手続きを通じて、遺言書の有効性について裁判所の判断を仰ぐことができます。
遺言書が無効であると裁判所によって判断された場合には、無効とされた部分に対する遺産分割の協議を再度行う必要が生じます。
このような判断が下されると、関係者間での新たな協議が始まり、遺産の分割について合意に至るプロセスが再開されます。
4 遺言書を偽造したらどうなる?
4-1 相続人となることができない
民法891条5号により、遺言書を偽造、変造、破棄、または隠匿する行為を行った者は相続人としての資格を失う(相続欠格)と明確に定められています。
遺言書を偽造することは、被相続人の意思が歪められ、遺産の分配が不当に影響を受ける可能性があります。
したがって、遺言書を偽造した者は、法律の規定に従って相続欠格となり、相続人としての資格を完全に喪失することになります。
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4-2 有印私文書偽造罪が成立する
遺言書の偽造行為は、刑法においても重大な違法行為として認識されており、具体的には、刑法159条1項に基づき、有印私文書偽造罪として罰せられることになります。
5 遺言書の偽造を防ぐための遺言書作成
5-1 『自筆証書遺言』のリスクを理解する
自筆証書遺言は、手軽に遺言書を作成する方法として知られています。
費用をかけることなく、特定の形式を守るだけで法的に有効な遺言書を作成することができます。しかし、この手軽さが偽造や紛失のリスクをもたらす原因ともなっています。
法律上、証人の立ち会いや印鑑証明書による本人確認は求められていないため、遺言書の偽造が比較的容易に行える可能性があります。
さらに、「押印」の要件に関しても、実印である必要はなく、認印でも法律上は問題ありません。
さらに、自筆証書遺言は原本の保管に関する明確な規定がないため、紛失のリスクも無視できない要素となっています。
これらのリスクを考慮すると、自筆証書遺言は手軽で経済的な方法である一方で、偽造や紛失といった問題に直面する可能性もあると理解することが重要です。
なお、令和2年(2020年)7月10日以降、自筆証書遺言の保管制度が導入され、この制度を利用することで自筆証書遺言の偽造や紛失のリスクを大幅に低減することができます。
法務局での遺言書の保管は公的な制度であり、遺言書の保管状況が法務局によって管理されるため、第三者による偽造や紛失のリスクが大幅に低減されます。
さらに、この保管制度を利用することで、相続発生時に家庭裁判所での検認手続きが不要となります。
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これにより、遺言書の検認手続きに伴う時間や費用を節約することが可能となり、相続手続きをスムーズに進めることができます。
5-2 法的な効力が強い『公正証書遺言』
公正証書遺言は、費用や公証役場への訪問が必要となるものの、遺言者の意向を確実に反映させるための選択肢として注目されています。
一般的に、公正証書遺言は法的な効力が強いとされており、遺言内容が正確に実行される可能性が高くなります。
公証人が遺言者の意向を直接確認し、遺言書を作成するプロセスを支援するためです。
このプロセスによって、遺言書の作成に関する誤解や不明点をクリアにし、遺言書の内容が遺言者の意向を正確に反映するようにすることができます。
しかし、公正証書遺言も全ての状況において完璧な方法ではありません。
例えば、遺言を作成した時点で遺言者が重度の認知症を患っていた場合、遺言の無効を主張される可能性があります。
ただし、このような状況でも、公証人の存在とその支援によって、公正証書遺言は自筆証書遺言に比べて無効とされるリスクが低いと言えます。
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6 まとめ|遺言の筆跡が違う場合の相談は弁護士へ
本記事では、遺言書の筆跡が違う、偽造が疑われる状況、法的手続き、そして遺言書の選択肢について詳細に説明しました。
遺言の偽造が疑われた際には、長期的な視点に立つと、遺言無効確認訴訟の提起も考えられます。そのため、適切な法律的支援を受けることが重要です。
不安や疑念を抱えている方は、専門的なアドバイスを得るために、相続問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。
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