遺留分侵害額請求の調停とは?手続きの流れやポイントについて弁護士が解説
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
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法律で最低限保障された相続財産を受け取る権利(遺留分)が侵された場合、どのような手続きで、どのようにして遺留分侵害額の請求ができるのか、疑問に感じる方は多いでしょう。
遺留分侵害額請求の調停は、協議によって解決しない場合に、裁判所を利用して紛争を解決する手段の一つです。しかし、調停にはその特性とメリット、デメリットがあるため、それを理解していないと思うような結果に繋がらない可能性もあります。
そこで本記事では、遺留分侵害額請求の調停について、手続きの流れからメリット・デメリット、有利に進めるためのポイントまで弁護士の視点から詳しく解説します。
1 遺留分侵害額請求の調停とは
1-1 遺留分侵害額請求とは
遺留分侵害額請求は、遺言や生前贈与によって、法で定められた最低限の遺留分を受け取れなかった場合、遺産を多く受け取った相続人に対して、不足している遺留分に相当する金額を求めるものです。
遺留分とは、特定の相続人に対して保障された最低限の遺産額のことを指しています。
被相続人は、遺言書で遺産の配分を自由に決めることができます。しかし、遺留分がある相続人に対しては、遺言書であっても遺産の一定割合を奪うことはできないのです。
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兄弟姉妹以外の親族には、この遺留分が認められています。遺留分が侵害された場合、その不足分を金銭で補うことが求められます。
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遺留分侵害額請求は現物返還ではなく、金銭の支払いが主体となっています。
1-2 遺留分侵害額請求の調停の特徴
遺留分侵害額請求の調停は、特定の相続人が法で保証された遺留分を受け取れなかった場合に行う手続きです。
調停は、家庭裁判所で行われ、調停委員が中心となって進行します。
調停委員は、双方の当事者から事情を聞き、必要な資料を提出させるなどして、問題解決を目指します。
当事者間での協議が難航した場合や合意に至らない場合に、第三者である調停委員を介して解決するための手段となります。
また、遺留分侵害額請求においては、「調停前置」という、訴訟に移行する前にまず調停を試みるべきであるという方針があります。
調停によって、訴訟に至る前に問題が解決できる可能性もあります。
手続きの一般的な流れとしては、まず当事者間での協議が行われ、それが不成立の場合に調停、そして最終的に訴訟という流れになります。
この流れを理解することで、遺留分侵害額請求の調停がどのような場合に有効で、どのように進めるべきかが明確になります。
遺留分侵害額請求の調停は、遺産分割における紛争解決の有効な手段であり、その特性とメリットをしっかりと理解することが、スムーズな進行と問題解決に繋がります。
1-3 遺留分侵害額請求の調停のメリット
遺留分侵害額請求の調停にはいくつかの明確な利点があります。
調停では裁判所が中立的な立場で事態を把握します。調停委員が双方の当事者から意見を収集することで、冷静かつ公平な交渉が可能になります。
特に、対立する当事者が同席することなく、各当事者の意見が聞かれるよう配慮されています。
次に、調停委員が双方の意見を基に、合理的な解決策を提案することがあります。
調停は非常に柔軟な手続きであると言えますが、当事者が納得しない条件での合意は必要なく、双方が納得する解決策が見つかれば、それが採用される可能性もあります。
訴訟よりも柔軟に解決ができる可能性があると言えるでしょう。さらに、調停の申立ては特別な法的知識がなくても可能です。
調停手続きは、一般の人でも容易に申し立てることができ、調停の場においても、口頭でのやり取りが主となります。
調停委員からのアドバイスを受けながら、法的な専門知識がない人でも十分に対応することができます。
以上のように、遺留分侵害額請求の調停は、公平な交渉が行え、柔軟な解決が可能であり、法的な専門知識がない人でも取り組みやすいというメリットがあります。
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1-4 遺留分侵害額の請求調停を申し立てる方法
遺留分侵害額請求の調停を申し立てる際には、いくつかの手続きと必要書類があります。
申し立てを行う家庭裁判所は、相手方の住所に該当する家庭裁判所が管轄となりますが、双方が合意すれば、他の家庭裁判所でも申し立てが可能です。
次に、申し立てに必要な書類を揃えます。
申立書と遺産目録のコピー、被相続人の戸籍謄本や相続人全員の戸籍謄本、遺言書やその検認調書謄本のコピーなどが含まれます。相続人については、養子縁組や代襲相続が発生している場合にはそれに対応する戸籍が必要となります。
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また、手数料として収入印紙1,200円分と、裁判所との連絡用の郵便切手が必要です。郵便切手の金額は裁判所によって異なるため、事前に確認が必要です。
申し立てが裁判所で受理された後、初回の調停期日(第1回期日)が設定されます。
日程については、申し立てをした当事者と裁判所が調整を行い、その後、相手方に申立書のコピーと日程に関する通知が送付されます。
2 遺留分侵害額の請求調停の流れについて
2-1 遺留分を侵害した相手との協議
遺留分侵害額請求の調停に先立ち、まずは侵害した相手と直接協議を行うことが推奨されます。
この段階で相手が遺留分の支払いに応じる場合、合意によって問題が解決することもあります。
その際には、「遺留分侵害額に関する合意書」を作成することで、後々のトラブルを防ぐことができます。
相手が協力的でない場合、内容証明郵便を用いて遺留分侵害額請求書を送付する手段もあります。
交渉が難航しそうな場合や時間がかかりそうな場合に有効で、内容証明郵便を送ることによって、遺留分侵害額請求権の時効を一時的に停止することが可能です。
遺留分侵害額請求には時効があり、「相続と遺留分侵害を知った日から1年以内」に請求を行う必要があります。
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この期限によって、請求権が消滅してしまう可能性があるため、注意が必要です。
2-2 協議が不成立なら調停へ
遺留分に関する協議が不成立となった場合、家庭裁判所による調停を申し立てることによって解決を目指すことができます。
調停では、裁判所が仲介役となり、調停委員が双方の主張を個々に聞く形で進行します。
調停の大きなメリットは、相手と直接対面する必要がないため、感情的なエスカレーションを避けつつ、冷静に事実関係や主張を整理できる点です。
このようにして、調停委員が中立的な立場から双方の意見を聞き、適切な調整を行います。
裁判所を介した形式の調停は、双方が自分たちだけで話し合うよりも、合意に至る可能性が高くなる場合が多いです。
感情が高ぶりがちな遺留分侵害額請求においては、第三者が介在することでより冷静な議論が可能となり、解決に繋がりやすくなるでしょう。
2-3 当事者の合意・調停の成立
調停が進行する中で、最終的に双方が合意に至れば、調停は成立となります。この際、調停調書が作成され、その内容に基づいて遺留分の支払いが行われることとなります。
調停の進行には、裁判官1名と調停委員2名からなる調停委員会が、申立人と相手方の主張をそれぞれ個別に聞き取り、適切な調整を行います。
調停の場では、当事者が交互に調停室に入り、調停委員から各々の事情や主張について尋ねられます。
調停が必要な回数は一概には言えませんが、1〜2回で終わることはほとんどなく、場合によっては1年以上もかかることがあります。
調停が成立した場合、その後の遺留分の支払いは調停調書に従って行われます。
もし調停調書に基づく取り決めが守られない場合は、その履行を確保するために地方裁判所に強制執行の申し立てが可能です。
2-4 請求調停が不成立なら訴訟へ
調停による合意が成立しなかった場合、地方裁判所で「遺留分侵害額請求訴訟」を起こす必要があります。
訴訟では、しっかりとした証拠と主張が必要です。
訴訟を有利に進めるためには、証拠を整えて、その証拠に基づく法的な主張を明確に書面で提出する必要があります。
また、訴訟が進行する中で、裁判官から和解の提案がなされることもあります。
3 遺留分侵害額の請求調停を有利に進めるために
3-1 法的な根拠
調停の過程で、自分の主張を調停委員に理解してもらうためには、法的に正当であることを主張する必要があります。
ただし、口頭での主張だけではなく、その根拠をしっかりと示すことが重要です。
調停期日において調停委員に自分の主張を理解してもらうためには、関連する資料や証拠を用意することが有効です。
例えば、遺留分侵害が不動産の贈与や遺贈によって生じた場合、その不動産の評価額を示す資料が必要になるでしょう。
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また、遺留分の計算が複雑である場合は、その計算方法を書面にまとめて説明することがおすすめです。
このように、調停期日の時間は限られていますので、事前に必要な資料を整え、それを効率よく調停委員に伝える工夫が求められます。
資料を用意することで、調停委員が自分の主張をより早く、そして正確に理解することが可能となり、調停を有利に進めることができます。
3-2 当事者双方が納得する妥協点を見つける
遺留分侵害額の請求調停は、協議の一形態であるため、双方の当事者が納得しない限り、調停は解決しないという点を理解することが重要です。
調停の目的は、双方が納得できる解決策を見つけることですので、単に自分が法的に得られる遺留分の額に固執するのではなく、より広い視点で妥協点を探る必要があります。
調停で解決するためには、調停の期間やそれに伴う労力、さらには調停が成立した後の相手方の履行能力なども考慮に入れるべきです。
これらの要素を総合的に評価し、戦略的に妥協点を設定することが、調停を円滑に進めるカギとなります。
3-3 調停委員は中立的に判断すると理解する
調停委員はさまざまな専門家で構成されており、その中には法律家だけでなく、公認会計士や不動産鑑定士なども含まれます。
そのため、調停委員は多角的な視点から問題を評価する能力があります。
しかし、その中立性が時には誤解を生む可能性もあります。例えば、調停委員の意見が自分の考えや希望と一致しないケースは少なからずあるのです。
そのため、調停委員は、職務上、当事者に対して中立的な立場を取ることが求められていることを理解しておく必要があります。
4 遺留分侵害額の請求調停を弁護士に相談するメリット
4-1 遺留分侵害額請求権の消滅時効を防ぐ
遺留分侵害額の請求には、一定の時効期間が設けられています。
具体的には、相続が始まってから遺留分が侵害されたことを知った日から1年以内に請求しなければならないという制限があります。
何も手続きをしないでいるとあっという間に過ぎてしまい、その後は遺留分を取り戻す権利が消失してしまいます。
このようなリスクを回避するために、弁護士に相談することが大切です。
弁護士は、遺留分侵害額請求の調停を進めることで、時効の完成を阻止する手続きを適切に行ってくれます。
調停が進行中であれば、時効は停止状態になります。さらには、調停が成立すれば、時効期間がリセットされるため、新たな時効期間が始まることになります。
4-2 遺留分を侵害した相手との交渉が可能
遺留分侵害額の請求において、相手との交渉は避けて通れません。
ただし、この交渉は非常にデリケートなものであり、感情が高ぶることで冷静な判断が難しくなる場合も少なくありません。
こうした課題を解決するために、弁護士に相談するメリットがあります。
弁護士はプロフェッショナルな視点で交渉を進めてくれるため、感情的なもつれを避け、効率的に問題を解決することができます。
さらに、遺留分の計算や遺産の評価も正確に行ってくれるので、その点でも安心感があります。
4-3 調停・訴訟を有利に進められる
遺留分侵害額の請求において、協議が難航し調停や訴訟へと進展するケースがあります。
このような状況では、弁護士がサポートすることで、調停や訴訟がスムーズに進行します。
適切な証拠の収集や主張の整理、法的な手続きの適正化など、多方面でのサポートが期待できます。
これによって、自分自身の主張がより強く、かつ明確に裁判所や相手方に伝えられるため、有利な条件での解決が可能となります。
そのため、遺留分侵害額の請求を考えている場合は、早めに弁護士に相談することがおすすめです。
早い段階での専門的なアドバイスが、後の調停や訴訟を大いに有利に進める可能性が高いのです。
5 まとめ
遺留分侵害額の請求調停は、相続において発生する問題を解決するための重要な手段です。
この記事では、調停の申し立てから成立、さらには訴訟への移行まで、その手続きとポイントを詳細に解説しました。
遺留分侵害額の請求調停は、単に法的な手続きを踏むだけでなく、相手方との協議や調停委員との対話においても高度なスキルが求められます。
そのため、早い段階での弁護士の相談が、非常に有利な条件での解決を可能にすると言えるでしょう。
使途不明金や不動産の評価等の専門的な遺産調査や、交渉・裁判に力を入れて取り組んでいます。
相続の法律・裁判情報について、最高品質の情報発信を行っています。
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