損保ADRとは?交通事故の保険トラブルで困ったときの活用法を弁護士が徹底解説
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
慰謝料の増額、後遺障害認定のサポートを中心に、死亡事故から後遺障害、休業損害の請求に取り組んでいます。
交通事故の被害者救済のために、積極的に法律・裁判情報の発信を行っています。
全国からご相談を頂いております。ご希望の方はお電話またはwebでの無料相談をお気軽にご利用ください。
損保ADRとは、交通事故に遭った保険契約者が損害保険会社との間で生じた紛争を解決するための制度です。迅速かつ低コストで解決するための有効な手段として注目されています。
本記事では、交通事故問題に詳しい弁護士が、損保ADRの情報を中心に、必要なシーンや手続きの方法、メリット・デメリットなどの情報について解説します。
1 損保ADRとは
損保ADR(Alternative Dispute Resolution)は、損害保険会社と保険契約者との間で生じたトラブルや紛争を、裁判に頼らずに解決するための制度です。
日本では、2004年に「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(いわゆるADR法)が公布され、2007年から施行されました。
これにより、消費者がトラブルに陥った際、公平かつ中立な立場での支援制度を設けることが義務付けられたのです。
裁判によって解決するのではなく、中立的な第三者機関が介入して、紛争を解決する手法を指しています。
損害保険会社とのトラブルに関する相談や苦情を受け付けており、解決しない場合には弁護士、消費者生活相談員、学識者などから構成される紛争解決委員が、公平中立の立場から解決支援を行います。
2 保険業界のADR相談窓口(指定紛争解決機関)
保険業界に設置されているADR相談窓口(指定紛争解決機関)は、保険業界における特定の分野を担当しており、相談の内容によって窓口が異なります。
それぞれのADR相談窓口は、その分野に関する専門的な知識と経験を持っています。
これにより、保険契約者は、自分が抱える問題に最も適した相談窓口を選択することができます。それぞれの窓口によって、保険契約者と保険会社との間の公平な紛争解決を支援し、保険市場の公正性と透明性を保つ役割を果たしています。
2-1 ① 社団法人日本損害保険協会そんぽADRセンター
そんぽADRセンターは、『日本国内系の損害保険会社』に関連する問題を取り扱う窓口です。
自動車保険、火災保険、旅行保険など、損害保険全般に関する問題が含まれており、交通事故に関する相談にも対応しています。
専門の相談員がお客様の問題や疑問に対応し、適切なアドバイスを提供します。また、保険会社との間にトラブルが発生した場合には、その解決を支援します。
参考:社団法人日本損害保険協会そんぽADRセンター『相談対応、苦情・紛争の解決』
2-2 ② 一般社団法人保険オンブズマン
保険オンブズマンは、『外資系の損害保険会社』に関連する問題を取り扱う窓口であり、外資系の損害保険会社が提供する保険商品やサービスに関する問題、またはその取扱いに関する問題が対象となります。
『苦情処理手続』『苦情処理手続によらない苦情対応』『紛争解決手続』の3つの手続きが実施されており、保険契約者と保険会社との間の紛争解決を支援し、公平な解決を促進しています。
参考:一般社団法人保険オンブズマン『苦情・相談等の受付方法』
2-3 ③ 社団法人生命保険協会生命保険相談所
生命保険相談所は、『生命保険会社』に関連する問題を取り扱う窓口です。
生命保険、医療保険、年金保険など、生命保険全般に関する問題に対応しており、保険契約者の問題や疑問に対応し、適切なアドバイスを提供しています。
また、保険会社との間にトラブルが発生した場合には、その解決を支援します。
参考:社団法人生命保険協会生命保険相談所『生命保険相談所のご案内』
3 損保ADRの具体的な手続きについて
そんぽADRセンターにおける損保ADRの具体的な手続きは以下のように分けられています。
3-1 ① 相談対応
そんぽADRセンターでは、保険契約者が持っている、損害保険に関する一般的な相談や問題に対応しています。
交通事故に関する相談においては、交通事故に遭った保険契約者が、保険金の請求に関することや、保険会社についての疑問、などに対応しています。また、その他にも、損害保険に関する相談として、自動車保険だけではなく、損害保険全般に関する問題に対応します。
交通事故は複雑な問題を引き起こすことが多く、被害者が適切な補償を受けるためには専門的な知識が必要となることがあります。そんぽADRセンターは、そのような被害者を支援するための窓口となっています。
3-2 ② 苦情対応
保険契約者が保険会社や代理店の対応に不満を持っている場合、そんぽADRセンターに苦情を申し立てることができます。
そんぽADRセンターは、受け付けた苦情について損害保険会社に通知し、その対応を求めます。保険会社は、そんぽADRセンターからの通知を受け取った後、保険契約者の苦情に対する対応を再評価し、必要な場合は対応を改善することになります。
保険契約者と保険会社との間の交渉による解決を促進します。
3-3 ③ 紛争対応
保険契約者と保険会社との間でトラブルが発生し、当事者間での解決が図れない場合には、紛争解決手続の申立てをすることができます。
紛争解決手続の申立てが受け付けられると、紛争解決委員が担当します。紛争解決委員は、弁護士・消費者生活相談員・学識者などで構成され、公平かつ中立な立場から紛争を評価し、解決策を提案します。
紛争解決委員は、保険契約者と保険会社がそれぞれの主張をまとめ、必要な資料を提出する期日までに、紛争の評価を行います。その後、紛争解決委員から和解案が提示され、その内容で双方が合意した場合は、和解解決となり、手続きが終了します。
紛争解決委員から和解案が提示され、その内容で双方が合意した場合は、和解解決となり、手続きが終了します。
紛争解決手続は大きく分けて「一般紛争」と「交通賠責紛争」の2種類があります。一般紛争は、火災保険、旅行保険など、損害保険全般に関する問題が対象となります。一方、交通賠責紛争は、交通事故に関連する問題が対象となります。
4 苦情相談および紛争解決手続きの流れ
(出典 日本損害保険協会ホームページより)
損保ADRの苦情相談および紛争解決手続きの流れは以下の通りです。
4-1 苦情相談の流れ
保険契約者が保険会社や代理店の対応に不満を持っている場合、まずそんぽADRセンターに苦情を申し立てます。申立ては、所定の申立て書に必要事項を記入し、関連資料とともに提出することで行われます。
そんぽADRセンターは、受け付けた苦情について損害保険会社に通知し、その対応を求めます。保険会社は、そんぽADRセンターからの通知を受け取った後、保険契約者の苦情に対する対応を再評価し、必要に応じてその対応を改善します。
4-2 紛争解決手続きの流れ
保険契約者と保険会社との間で紛争が発生し、当事者間での解決が図れない場合、保険契約者はそんぽADRセンターに紛争解決手続の申立てを行います。
紛争解決手続の申立てが受け付けられると、紛争解決委員が担当します。紛争解決委員は、弁護士・消費者生活相談員・学識者などで構成され、公平かつ中立な立場から紛争を評価し、解決策を提案します。
紛争解決委員は、保険契約者と保険会社がそれぞれの主張をまとめ、紛争の評価を行います。その後、紛争解決委員から和解案が提示され、その内容で双方が合意した場合は、和解解決となり、手続きが終了します。
5 損保ADRを利用するメリット・デメリット
損保ADRを利用する際には、メリット・デメリットをしっかりと把握しておき、そのバランスによって判断することが大切です。
5-1 損保ADRを利用するメリット
損保ADRを利用するメリットは多岐にわたりますが、特に以下の2点が挙げられます。
① 費用面
相談や苦情・紛争解決手続にかかる費用は原則として無料であるため、費用が抑えられるというメリットがあります。
② 短期間に解決できる
短期間での紛争解決が可能であることも大きなメリットと言えます。民事裁判であれば、訴訟を提起してから判決が下るまでに長い時間がかかることが一般的です。しかし、損保ADRでは、申立てから和解までの期間が短く、一般的には数ヶ月程度で解決することが可能です。
③公平かつ中立である
紛争解決手続は、第三者機関であるADR機関が行います。公平かつ中立的な立場から紛争を評価し、保険契約者の利益が適切に保護され、公平な解決が促進されます。
5-2 損保ADRを利用するデメリット
損保ADRを利用する際には、以下のようなデメリットも考慮する必要があります。
① 被害者にとって有利になるとは限らない
損保ADRは、保険契約者と保険会社との間の紛争を公平に解決するための手段ですが、その結果が必ずしも被害者にとって有利になるとは限りません。紛争解決委員は中立な立場から紛争を評価し、解決策を提案しますが、その結果は保険契約者の期待するものとは異なる場合もあります。
② 担当弁護士を自由に選択・変更できない
損保ADRの手続きでは、弁護士をはじめとする紛争解決委員が中立な立場から紛争を評価し、解決策を提案します。しかし、この制度のもとでは、担当の弁護士を自由に選択したり、変更したりすることはできません。
【関連記事】交通事故で弁護士に依頼する9つのメリット|デメリットや慰謝料増額も徹底解説
6 損保ADRで取り扱えないもの
6-1 後遺障害や異議申し立ての結果への不満
損保ADRは、保険契約者と保険会社との間のトラブルを扱うため、後遺障害や異議申し立ての結果に関する相談などは対象外となります。
交通事故において、後遺障害の申請や異議申し立て手続きは、賠償金の算出において非常に重要になりますので、これらの手続きでお悩みの場合には、弁護士へ相談することをお勧めします。
【関連記事】後遺障害が認定されたらどうなる?認定や示談の流れ、弁護士に依頼するメリット
【関連記事】交通事故の後遺障害認定の期間は|遅い場合の効果的な対応方法について
【関連記事】後遺障害の異議申し立てについて~具体的な流れや成功するためのポイントを解説
6-2 過失割合の妥当性
過失割合の結果に不満な場合にも、「今回の事故の過失割合は〇対〇が妥当である」といった内容の判断は行いません。このような場合にも弁護士へ相談することをお勧めします。
【関連記事】自転車に横から突っ込まれた場合の過失割合とは?車の慰謝料相場は?
7 まとめ:損保ADRは取り扱い範囲、デメリットを踏まえて活用
損保ADRは、保険契約者と保険会社との間で生じた紛争を、公平かつ効率的に解決するための制度です。損保ADRの手続きは、相談対応、苦情対応、紛争対応の3つのステップからなります。
一般的な問題や疑問を持っている場合には相談対応を、保険会社や代理店の対応に不満を持っている場合には苦情対応を、当事者間での解決が図れない場合には紛争対応の手続きが可能です。
費用面での負担を軽減し、短期間での紛争解決を可能にすること、そして公平かつ中立な立場からの解決支援です。
もっとも、損保ADRには取り扱い外のことがらや利用のデメリットもあるため、弁護士への相談や裁判の利用も含めて、自分にとって最も相応しい手続きを選んで利用することが重要です。
【関連記事】交通事故を弁護士へ相談するベストのタイミングは?
慰謝料の増額、後遺障害認定のサポートを中心に、死亡事故から後遺障害、休業損害の請求に取り組んでいます。
交通事故の被害者救済のために、積極的に法律・裁判情報の発信を行っています。
全国からご相談を頂いております。ご希望の方はお電話またはwebでの無料相談をお気軽にご利用ください。