人身事故へ切り替えるべき6つの理由とは?切り替える手順を弁護士が解説
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
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交通事故は突然の出来事であり、そのショックと混乱の中で、人身事故であるにも関わらず『物損事故』として取り扱われてしまうことがあります。
しかし、あとから痛みやしびれが生じることが珍しくなく、物損事故のままでは治療費や慰謝料が発生しないため、不利益を被ることになるのです。
そこで本記事では、交通事故問題に特化した弁護士の視点から、物損事故から人身事故への切り替えについて、その理由や切り替えへ方法などを詳しく解説します。
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何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
1 「物損事故」と「人身事故」の違い
交通事故は、「物損事故」と「人身事故」に分けられます。これらの違いを理解することは、事故後の手続きや保険の適用、法的な処分などに大きく関わります。
物損事故とは、自動車や建物などの物に対する損害が発生した事故を指します。自動車同士の接触や、自動車が建物や道路設備に衝突する、人に対する直接的な被害がない事故を指します。
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また、物損事故は、行政処分上では事故扱いとはならず、違反点数の加算や免許停止などの処分は受けることがありません。
さらに、自賠責保険は適用されず、物損に対する損害賠償については任意保険からの支払いとなります。
そのため、怪我はないと思っていたものの、後から痛みやしびれが生じてくることや、処分を受けるのが嫌で、加害者から物損にしてほしいと頼まれるようなケースも起きています。
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一方で、人身事故とは、人が亡くなったり、怪我をしたりした事故を指します。
人身事故の加害者は、違反点数の加算や免許の停止などの行政処分、被害者側が被った損害賠償責任(民事処分)、法律違反に科される罰金や懲役などの刑事処分の3つの法的処分を受けることになります。
被害者にとっては、治療費をはじめ交通事故の損害を賠償してもらうことができますので、怪我や痛みが生じる可能性も考え、事故の大小を問わず、警察への連絡は不可欠です。
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2 人身事故なのに物損事故として取り扱われてしまう理由
2-1 事故直後には痛みやしびれを感じなかった
交通事故が発生した際、被害者自身が怪我の自覚がないために、人身事故が物損事故として取り扱われてしまうことがあります。
事故の衝撃により一時的に感覚が鈍くなったり、痛みを感じにくくなったりすることがあります。
その結果、事故直後には怪我の自覚がなく、物損事故として届け出をしてしまうことがあります。
しかし、時間が経つと痛みやしびれが発生することは珍しいことではありません。特にむち打ち症においては、初期症状が出にくいことが多いのです。
また、被害者が軽い打撲や擦り傷など、軽度の怪我をしたと自覚していた場合でも、それほど大きな怪我ではないと判断し、物損事故として届け出をすることがあります。
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しかし、後から痛みやしびれが発生したり、症状が悪化したりすることがあります。
そのようなことから、事故後の症状の変化に注意を払い、必要であれば医療機関での診察を受けることが重要です。
2-2 警察に診断書を提出しなかった
交通事故が発生した際、被害者が怪我をした場合でも、警察に診断書を提出しなければ、その事故は物損事故として処理されてしまうことがあります。
交通事故により怪我をした場合、その事故を人身事故として扱うためには、警察に対して診断書を提出する必要があります。
警察に診断書を提出しないと、被害者が怪我をしていないと判断され、その事故は物損事故として処理されてしまうのです。
そのため、診断書の提出を知らずに、そのまま物損事故として処理が進んでしまうということがあります。
物損事故として処理されると、交通事故証明書が発行されません。
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交通事故証明書は、保険会社に対する損害賠償請求や、加害者に対する慰謝料請求の際に必要となる重要な書類です。
そのため、物損事故として処理されると、適切な賠償を受けることが難しくなる可能性があります。
さらに、「実況見分調書」などの詳しい刑事記録が作成されません。
この調書は、事故の詳細な状況を把握し、適正な過失割合を割り当てるために重要ですが、物損事故として処理されると、適正な過失割合が割り当てられない可能性があるのです。
2-3 加害者から物損事故にしてほしいと頼まれた
交通事故が発生した際、加害者から被害者に対して「物損事故にしてほしい」「警察に診断書を出さないでほしい」と頼まれることがあります。
人身事故と認定されると、加害者は、
- 違反点数の加算や免許の停止などの行政処分
- 被害者側が被った損害賠償責任(民事処分)
- 法律違反に科される罰金や懲役などの刑事処分
といった3つの法的処分を受ける可能性があります。
物損事故として処理されると、法的処分を受けるリスクが低くなるだけでなく、損害賠償責任も軽減されます。
そのため、加害者にとっては人身事故よりも物損事故として処理される方が自身の利益となる可能性があるのです。
加害者からの頼みにより、被害者は怪我があるにもかかわらず、物損事故として処理してしまうことがあります。
しかし、適切な治療費や損害賠償を受けることが難しくなる可能性があります。
3 物損事故から人身事故へ切り替えるべき6つの理由
3-1 人身事故の方が受け取れる損害賠償金が高くなる
物損事故とは、物に対する損害が発生した事故であるため、損害賠償は破損した物を修理する費用だけにとどまります。
そのため、修理や弁償するための損害賠償は、それほど高くなりません。
一方、人身事故の場合は、怪我の治療費や慰謝料、損害賠償、後遺障害の慰謝料などが発生します。
これらは症状や後遺障害の程度によっては、高額になる可能性があります。
したがって、物損事故から人身事故へ切り替えることで、より高額な損害賠償を受け取ることが可能になります。
3-2 人身事故では入通院慰謝料や後遺障害慰謝料が発生し、増額も視野に
物損事故とは、物を破損させた修理費や弁償などの賠償が主になりますので、原則として慰謝料の請求はできません。
慰謝料は精神的な苦痛に対する賠償であり、物損事故では人間が直接的な被害を受けていないからです。
しかし、物損事故から人身事故に切り替わることによって、慰謝料の請求が可能になり、通院や入院、後遺障害などに対する慰謝料が受け取れる可能性があります。
特に、後遺症慰謝料については、被害者が受けた身体的な障害の程度によって認定される等級により、慰謝料の額が決まります。
等級は1級から14級にまで分類されており、等級が高く認定されるほど、つまり障害の程度が重いほど、慰謝料は高額になる可能性があるのです。
3-3 人身事故では実況見分調書が作成される
人身事故が発生した際には、警察官が事故現場で行う詳細な調査の結果をまとめた「実況見分調書」が作成されます。
この調査は、事故の当事者が立会いのもとで行われ、その結果が詳細に記録されます。
実況見分調書は警察官が作成するため、その内容の信用性は非常に高いと言えます。
そのようなことから、この実況見分調書は、被害者と加害者の間で「過失割合」の判定や、民事裁判での「示談」において重要な資料となります。
適切な過失割合の判定や示談交渉が行われるためには、事故の詳細な状況が明らかになっていることが必要ですが、そのためには、実況見分調書の存在が非常に重要なのです。
しかし、物損事故の場合には、このような実況見分調書は作成されません。
物損事故では、簡易な物損事故報告書が作成されるのみで、その内容は実況見分調書ほど詳細ではありません。
その結果、事故に対する適切な判断が難しくなることがあります。過失割合の判定や示談交渉が適正に行われないことがあるのです。
物損事故から人身事故に切り替えることによって、新たに実況見分調書が作成され、事故の詳細な状況が明らかになります。
これにより、過失割合の判定や示談交渉が適正に行われやすくなります。
3-4 人身事故では自賠責保険が適用されるようになる
自賠責保険は、主に人身事故に関連する損害を賠償するためのものであるため、人身事故に切り替えれば自賠責保険が適用されるようになります。
物損事故が発生した場合、自賠責保険からの賠償は原則として受けられません。
3-5 人身事故では適正な過失割合割り当てられる
人身事故は、その影響が被害者の生活に深刻な影響を及ぼす可能性があるため、適切な過失割合の割り当てが重要です。
『過失割合』とは、保険会社が事故の状況から判断し、当事者双方にどれぐらい責任があるかを数値で表したものです。
これは、事故の原因や状況、運転者の行動などを考慮して決定されます。
物損事故によって被害を受けたとしても、過失割合は相手が100、こちらが0になるとは限りません。
被害者にも一定の過失割合が割り当てられてしまう可能性があります。
特に物損事故の場合には、簡易な物損事故報告書だけが作成されるのみですので、それだけで過失割合が割り当てられてしまうと、適正であるとは言えないケースが多いのです。
人身事故として届け出をすれば、あらためて実況見分調書が作成されることになり、適正な過失割合が割り当てられる可能性があります。
そのようなことから、適正な過失割合を当てはめてもらう方が被害者にとって利益になる可能性が大きいです。
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3-6 人身事故では加害者に責任追及しやすく、早期解決にも繋がる
交通事故における人身事故と物損事故の違いは、は単なる被害の範囲だけでなく、加害者に問われる責任や法的処分にも大きな影響を及ぼします。
人身事故では、自動車損害賠償保障法(自賠法)が適用され、「運行供用者責任」と呼ばれる、加害者の車の保有者に対しても交通事故の責任が及ぶようになっています。
例えば、運転者が保険に入っていない場合でも、保有者の保険によって賠償金を支払うことが可能になり、被害者は最低限の賠償を受けることができるのです。
また、人身事故の場合、加害者は刑事責任を問われる可能性があります。
これは、単なる物損事故として修理や弁償などの賠償責任だけではなく、道路交通法などの法律違反として扱われ、罰金や懲役などの刑事処分が科される可能性があるということです。
加害者は、刑事処分を受けたくない、少しでも軽い罪で済ませたいという心理が働きますので、謝罪の意思を伝え、早期に示談を成立させたいと考えるものです。
そのため、被害者側としても早期解決の手段となりますので、大きなメリットとなります。
以上のような理由から、被害者は物損事故から人身事故への切り替えを検討するべきです。
4 物損事故から人身事故へ切り替える手順
4-1 病院で診断書を書いてもらう
交通事故により痛みやしびれなどの症状が出た場合、医師による診察を受けることが必要です。
これは、症状の治療を行うためだけでなく、交通事故による症状であることを医師に診断してもらうためでもあります。
この診断があることで、保険会社に対して事故による人身事故であることを証明することが可能となります。
次に、症状に適した科に受診することが重要です。
例えば、むち打ちや痛み、しびれの場合は整形外科、頭痛の場合は神経内科や脳神経外科を受診します。
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これは、専門的な治療を受けるために大切であるのはもちろんのこと、症状が交通事故によるものであることを正確に診断してもらうためです。
診察の際には、事故の詳細(事故の日時、事故の内容、症状がいつから発生したのか、どのような症状が現れたのかなど)を医師に伝えることが必要です。
これにより、医師は症状と事故との関連性・因果関係を評価し、適切な診断を行うことができます。
最後に、事故から一定期間が経過すると、任意保険会社が事故による症状であると認めないことがあるため、症状が現れたら、速やかに受診することが大切です。
これは、事故による症状であることを証明するための診断書を早期に取得するため、また、早期治療により症状の悪化を防ぐためでもあります。
4-2 警察に人身事故への切り替えを依頼する
病院で診察を受け、診断書を作成してもらったら、診断書を持って警察署に行き、人身事故への切り替えを申請します。
しかし、事故から日数が経過している場合や、症状と事故との因果関係が明確でない場合には、警察が人身事故への切り替えを認めないこともあります。
そのため、事故後に痛みやしびれなどの症状が出た場合は、できるだけ早く病院で診察を受け、診断書を作成してもらうことが重要です。
4-3 実況見分や事情聴取に応じる
人身事故に切り替わった場合、警察は新たに実況見分を行い、事故の詳細を調査します。
この実況見分は、被害者と加害者が立ち会いのもとで行われ、警察官は事故の状況を詳細に確認し、それをもとにして実況見分調書を作成します。
この調書は、事故の詳細を正確に記録したものであり、信頼性が高いため、後の過失割合の判定や示談交渉において重要な資料となります。
事故発生当時の状況を正確に伝えるため、事故の詳細を思い出し、それを警察官に説明することが大切です。
また、加害者の言い分もよく聞き、事実と異なる主張をしていないか注意することも重要です。
被害者が実況見分に立ち会うことで、被害者に不利な調書が作成されるのを防ぐことができます。
4-4 物損事故から人身事故へ切り替えるための届出期間
物損事故から人身事故への切り替えについて特定の期間が設定されているわけではありません。
ただ、事故から時間が経過しすぎると、その事故が原因で怪我をしたという因果関係が疑われ、申請が受け付けられない可能性があります。
したがって、事故による痛みやしびれなどの症状が現れた場合は、早急に医療機関で診察を受け、診断書を取得することが重要です。
さらに、速やかに警察に人身事故への切り替えを申請することが大切です。
警察に人身事故への切り替えが認められたら、「交通事故証明書」が発行されるようになります。
5 警察が人身事故の切り替えを認めない場合
交通事故が発生した際、物損事故から人身事故への切り替えが認められない場合があります。
事故から時間が経過しすぎてしまった場合には、その事故が原因で怪我をしたという因果関係が疑われ、申請が受け付けられないのです。
そういった状況に直面した場合には、「人身事故証明書入手不能理由書」を保険会社に提出します。
この書類は、人身事故証明書を提出できない理由を説明するためのもので、保険会社に書式が用意されています。
ただし、この書類は痛みやしびれなどの症状が軽症で、警察で人身事故として取り扱われなかった場合に使用する意味合いのものであることを理解しておく必要があります。
つまり、この書類を提出したからといって、必ずしも治療費や賠償金が受け取れるわけではありません。
そのため、やはり早く受診して、警察にも速やかに人身事故への切り替え申請をするのが大事であると言えます。
事故の後遺症は、時間が経つと明らかになることが多いです。そのため、事故直後は自覚症状がなくても、一度医療機関で診察を受けることをおすすめします。
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そして、何かしらの症状が出た場合には、すぐに警察に人身事故への切り替えを申請することが重要です。
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6 まとめ
交通事故が発生直後には、被害者自身に怪我の自覚がなかったり、加害者から物損事故にしてほしいと頼まれたりすることで、物損事故として取り扱われてしまうことがあります。
しかし、事故後に痛みやしびれなどの症状が現れたのであれば、しっかりと損害賠償を受けるためにも、速やかに物損事故から人身事故へ切り替えるようにしましょう。
もし、物損事故から人身事故への切り替えに不安がある場合には、交通事故問題に対する専門的な知識と経験を持つ弁護士に相談し、サポートを受けることが重要です。
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