「弁護士特約の利用は保険会社が嫌がる」ことなの?3つの理由と対応方法
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
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「保険会社は、弁護士特約を使うことを嫌がる」と、聞いたことはないでしょうか。
交通事故の被害者にしてみれば、弁護士特約を使えるのなら、それを利用して弁護士に依頼したいですよね。ただ、「保険会社はなぜ嫌がるのか」と、疑問に思うかもしれません。
保険会社が弁護士特約を嫌がるのは、ケース・バイ・ケースです。その理由はさまざまですが、そもそも弁護士特約が受けられないケースや、保険会社が単に嫌がるケースもあります。これらの点を踏まえたうえで、弁護士特約を利用するかどうか見極めることが大切でしょう。
本記事では、保険会社が弁護士特約を使うことを嫌がる3つの理由から、嫌がられた場合の対応方法までわかりやすく説明します。
1 弁護士特約とは?
弁護士特約とは、交通事故の被害者になった時に、弁護士に依頼できる特約のことをいいます。
交通事故の被害者は、事故後に加害者側と示談交渉をする必要があります。これは、ケガの治療をしている被害者にとって、心身ともに負担のかかることです。特にもらい事故の示談交渉では、保険会社の支援を受けられないため、専門家の力を借りたくなるでしょう。
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自分で弁護士を依頼する場合の費用は自己負担ですが、弁護士特約を利用すると、保険会社が費用をカバーしてくれます。交通事故の被害者は、示談交渉にかかる費用のほとんどを負担する必要がなくなるうえ、自分で弁護士を依頼する場合と同じように、弁護士からの支援を受けられます。
ほとんどの自動車保険では、弁護士特約に上限を設けています。上限額はどの自動車保険会社も同じというわけではありませんが、一般的に300万円とされています(相談料や書類作成費用の上限は10万円)。
物損事故から死亡事故、重度後遺障害の事案まで幅広くサポートを受けられる制度です。
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2 保険会社は基本的に弁護士特約の利用を嫌がらない
保険会社は基本的に、弁護士特約を使うことに対して嫌がるということはありません。
弁護士特約を利用するかどうかは交通事故の被害者が決めることですし、約款に反していなければ、保険会社は粛々と手続きを進めるのが一般的です。
ただし、ケースによっては嫌がられることがあるのも確かです。それはなぜなのでしょうか。嫌がられる理由について、次の章で解説します。
3 保険会社が弁護士特約を嫌がる3つの理由
保険会社が弁護士特約を嫌がる主な理由は、以下の3つです。
・弁護士費用を負担しなければならないから
・弁護士費用に対する効果があまりないから
・弁護士が約款とは異なる基準を用いているから
それぞれ詳しく見てみましょう。
3-1 嫌がる理由①:弁護士費用を負担しなければならないから
もし「被害者が弁護士特約を利用しなければ、費用を負担することはなかった」と保険会社が考えたとすると、それは嫌がる理由として挙げられるでしょう。
弁護士特約の利用でかかった弁護士費用は、その保険会社が負担します。当然のことですが、会社にとっては支払った分損をするわけですし、弁護士特約の利用件数が多くなればなるほど負担する額も大きくなります。
「弁護士費用は決して安くない」と感じるのは、個人だけでなく会社も同じです。それほど大きな事故でなくても、弁護士に依頼することで数十万円ほどかかります。保険会社の立場からすれば、こうした負担はできるだけ避けたいというのが本音でしょう。
3-2 嫌がる理由②:弁護士費用に対する効果があまりないから
被害者が弁護士特約の利用を希望しても、保険会社が「これは弁護士をつけるほどでもない」と判断した場合、嫌がられることがあります。
「費用倒れ」という言葉を聞いたことはないでしょうか。これは、示談交渉にかかった弁護士費用が、実際に受け取った賠償金を上回ることを意味します。
例えば、交通事故のケガが全治1か月程度の軽症である場合、弁護士を通じて請求できる金額は、20万円ほど。これは、保険会社が提示する賠償金額よりも数万円ほど高めといわれています。けれども、数万円増えただけでは弁護士費用として消える可能性が高く、費用倒れという結果になりやすいのです。
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「『費用倒れ』になるなら、利用する意味がないだろう」と、当事者ならそう思うでしょう。それは、保険会社も同じです。このように、費用対効果が感じられないようなケースは、保険会社が嫌がる可能性があります。
3-3 嫌がる理由③:弁護士が約款とは異なる基準を用いているから
弁護士費用は、その弁護士または弁護士事務所がどの基準を利用しているのかによって異なります。弁護士特約の約款には基準が設定されていますが、依頼した弁護士が独自の基準を持っていた場合、その弁護士の基準で費用を算出します。
多くの保険会社が採用している保険金支払基準が、日本リーガル・アクセス・センターのLAC基準です。LAC基準では、
・法律相談料
・着手金
・報酬金
について、それぞれ算出方法が定められています。弁護士特約を利用した場合、保険会社はLAC基準にそって弁護士費用を算出します。
被害者から依頼を受けた弁護士は、弁護士費用の支払いについて弁護士特約の約款が定めている基準に従うかどうかを自由に決められます。
つまり、自ら設定している基準で弁護士費用を請求することが可能なのです。一般的に弁護士事務所の基準は約款のそれよりも高額になる傾向があることから、保険会社側の負担が大きくなると予想されます。支払額が増えるという点で、保険会社が嫌がる可能性は十分にあります。
4 弁護士特約を利用できないケースとは?
保険会社が弁護士特約を嫌がるということとは別に、そもそも弁護士特約が利用できないケースがあります。主なものは、以下の5つです。
・被害者に故意または重大な過失のある事故
・自動車事故以外の事故
・業務中に起きた事故
・加害者とは関係のないトラブル
・事故後に加入した弁護士特約
4-1 被害者に故意または重大な過失のある事故
弁護士特約の約款には、弁護士特約が適用されないケースが定められています。
その一つが、被害者が故意に起こしたまたは被害者側に重い責任のある交通事故です。
「被害者が故意に起こした事故」とは、被害者がわざと起こした事故のことですし、「被害者側に重い責任のある事故」とは、以下のようなものを指します。
・飲酒運転
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・無免許運転
・自殺行為(例:急な飛び出し)
・犯罪行為(例:あおり運転)
【関連記事】あおり事故とは?追突事故の対処法を交通事故に詳しい弁護士が徹底解説
・過労運転(例:薬物や病気の影響を受けた運転)
などが挙げられます。
4-2 自動車事故以外の事故
弁護士特約が適用されるのは、自動車を巻き込んだ事故のみです。そのため、自動車が関与していない交通事故に対しては、弁護士特約の利用はできません。
ここでいう「自動車」には、4輪車の他に、
・原付きを含むバイク
・大型車(タンクローリーなど)
が含まれています。
つまり、原付バイクどうしの事故や、原付バイクと自転車の事故は対象となりますが、自転車どうしの事故や、歩行者と自転車の事故は、対象外ということです。
4-3 業務中に起きた事故
事業用の車に乗っていて交通事故に巻き込まれたケースは、弁護士特約が適用されないことが多くあります。業務中に発生した事故は、労災保険の対象とみなされる傾向にあるというのが理由です。
ただし、業務中に起きた事故は労災保険の対象外となることもあり、弁護士特約を利用できるかどうかについては、議論の余地があります。この場合、保険会社によって対応が異なりますので、加入先の保険会社に弁護士特約が利用できるかどうかを確認するとよいでしょう。
4-4 加害者とは関係のないトラブル
弁護士特約は、加害者との間に発生したトラブルを解消することを目的としています。
そのため、加害者とは関係のないところで発生しているトラブルを解決するために、利用することはできません。
具体的には、
・自然災害
・暴動
・戦争
などが当てはまるでしょう。
また、
・被保険者の家族(配偶者など)に対する賠償金の請求
・被保険者と加入している保険(車両保険など)との間で発生しているトラブル
なども、加害者がかかわっていないという点で対象外とみなされます。
4-5 事故後に加入した弁護士特約
交通事故に巻き込まれ、慌てて弁護士特約に加入しても利用できません。弁護士特約が対象としているのは、加入している間に発生した交通事故だからです。
交通事故が発生する前に家族が弁護士特約に加入している場合は、そちらを利用できる可能性があります。確認してみましょう。
5 実は弁護士特約を利用できるケースとは?
多くの人が「無理だろう」と思っていても、実は弁護士特約が利用できるケースがあります。主なケースは、以下の3つです。
・軽微な交通事故
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・被害者に過失のある交通事故
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・示談交渉がスムーズに進んでいるケース
5-1 軽微な交通事故
ケガの程度が軽く、弁護士に依頼するほどのことでもない軽微な交通事故でも、弁護士特約を利用することは可能です。
軽微な交通事故に対しては、「この程度なら賠償金もそれほど期待できないだろう」と思うかもしれません。保険会社の方も、「この程度なら弁護士に依頼する必要はない」と、被害者に弁護士特約の利用をやめるようアドバイスする可能性があります。
けれども、どんなに軽微な交通事故だったとしても、弁護士に依頼することで増額される可能性はゼロではありません。例えば、自己負担では費用倒れになりやすいケースでも、弁護士特約を利用して数万円増額されれば、「弁護士に頼んでよかった」となるのではないでしょうか。
5-2 被害者に過失のある交通事故
「自分にも過失があるので、弁護士特約は無理だろう」と諦めてしまうかもしれません。
もらい事故は別ですが、交通事故の多くは被害者にも何割かは事故責任があるとみなされる場合がほとんどです。つまり、被害者に重大な落ち度がなくても、被害者側に交通事故の責任(過失)が発生するということです。
加害者と被害者の交通事故の責任は「過失割合」で表現されますが、故意に起こした事故でなく、また被害者の過失割合が5~7程度であれば、弁護士特約が適用される可能性が高くなります。
5-3 示談交渉がスムーズに進んでいるケース
示談交渉が円滑に進んでいる場合、トラブルがほとんどないという理由から、弁護士特約は利用できないと考えている人も少なくありません。
けれども、争点の有無に関係なく、弁護士特約は利用可能です。トラブルがないことと、適切な賠償金が提示されているかどうかは、異なります。基本的に、保険会社から提示される賠償金よりも、弁護士が請求する賠償金の方が高額になる傾向にあります。「適切な賠償金額なのだろうか」と気になるようであれば、弁護士特約の利用を検討しましょう。
6 保険会社から弁護士特約を嫌がられた時の対応方法
弁護士特約の利用について保険会社に問い合わせた時に、嫌がられるような態度を取られるのは、気持ちの良いものではありませんよね。もし嫌がられたら、以下のように対応してみましょう。
6-1 弁護士特約が利用できるケースかどうかを確認する
弁護士特約の利用を保険会社に告げると、「使わなくていい」と言われることがあります。
諦める前に、自分のケースは弁護士特約の対象外なのかどうかを確認しましょう。もし、約款上問題なければ、保険会社に利用したい旨を伝えます。
6-2 使えない理由と根拠を提示してもらう
約款上問題がなくても、保険会社から「使えない」または「使わない方がいい」などと、門前払いされてしまうかもしれません。けれども、諦めるのはまだ早いです。なぜなら、保険会社が被害者に使わないようにすすめるのは、保険会社側の都合(できるだけ支払わないように済ませたいなど)という場合がほとんどだからです。
保険会社がこうした態度を取った場合は、「使えない理由」と「使えない根拠」を明確に提示してほしい旨を告げましょう。
弁護士特約が利用できないケースであれば、その時点で諦めなければいけませんが、そうでない場合は、手続きを進めることが可能です。
6-3 紹介された弁護士を選ぶかどうかは自分で決める
弁護士特約を利用することになった時、保険会社に弁護士を紹介されることがあります。「断ったらだめなのかな」と思うかもしれませんが、どの弁護士に依頼するかを決めるのは被害者の自由です。
紹介されたら必ず利用しなければならないという決まりはありませんので、嫌であればはっきりと断りましょう。
7 まとめ:弁護士特約を活用して適切な解決を図りましょう!
弁護士特約の利用を保険会社が嫌がる理由について、ご紹介しました。
ご紹介した理由は、以下の3つです。
① 弁護士費用を負担しなければならないから
② 弁護士費用に対する効果があまりないから
③ 弁護士が約款とは異なる基準を用いているから
保険会社が嫌がっても、弁護士特約は使えないというわけではありません。むしろ、使えるのに「使えない」と思い込んでいる場合が多いのです。
もし、弁護士特約を利用しようと決めたら、交通事故の弁護について実績と信頼のある弁護士に任せることが賢明です。良い弁護士に依頼して、示談交渉を有利に進めていきましょう。
慰謝料の増額、後遺障害認定のサポートを中心に、死亡事故から後遺障害、休業損害の請求に取り組んでいます。
交通事故の被害者救済のために、積極的に法律・裁判情報の発信を行っています。
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