交通事故その場で示談してはいけない理由|事故後の対処法も弁護士が解説
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
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車を運転中、交通事故にあってしまったら突然のできごとに、誰もがパニックになってしまうでしょう。
交通事故はどんなに気を付けていても、誰がいつ遭遇するかわからないものです。
たとえ事故にあっても、その場で示談することは絶対に避けなければなりません。後々トラブルになりかねないからです。しかし突然の事故であわてたり、大した事故ではなかったりすると、事故相手のいうがままに示談としてしまうことも。
この記事では、その場で示談をしてはいけない理由や、事故にあったときの対処方法を弁護士が詳しく解説します。
1 交通事故を起こしたらその場で示談してはいけない理由
交通事故を起こしたとき、軽い接触事故だったり相手に頼みこまれたりしたら、ついその場で示談に応じたくなるかもしれません。
しかしその場で示談にすることは、後々大きなトラブルに巻き込まれることも。
ここでは、事故現場で示談にしてはいけない理由を紹介します。
1-1 交通事故の示談とは
一般的に示談とは、当事者同士が裁判をせずに、話し合いで民事紛争を解決することです。
交通事故の示談とは、事故の加害者と被害者が話し合いにより過失割合(それぞれの責任の重さ)や治療費、慰謝料などの損害賠償額を決めることをいいます。
たいていは双方の保険会社が示談交渉をおこない、示談の内容にお互いが合意すれば示談成立となるのです。
後からトラブルとなりがちなケースは、事故現場で被害者も負傷がなく、お互いが急いでいたため、警察も保険会社も呼ばずに当事者同士で終わらせてしまうもの。
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加害者が財布から数万円程度の現金を被害者に渡して、「これで終わりにしましょう」とします。被害者も、その場では納得するケースも多いでしょう。
しかしこれは後々大きなトラブルとなる可能性があるのです。
1-2 事故現場で和解したら後から取り消せない
事故現場で和解し示談に応じてしまうと、後で問題が生じても取り消すことはほとんどできません。車の損害額やケガの状況など、事故現場では何も確定できないのが現実です。
そのような状態で和解し示談をすることは、絶対に避けなければなりません。
なぜならば、思ったよりもケガの程度が重かったり、車の修理金額が高かったりする場合もあるからです。
たとえ実際の損害額とかけ離れている内容であっても、双方が合意すれば示談は成立します。
その場で示談した内容よりも、治療費や車の修理代が高くかかることはよくあることです。しかし間違いだったからといって、いったん成立した示談は取り消せません。
(注)相手に脅迫されて応じてしまったときなどは、示談を取り消せることもあります。
1-3 相手のたちが悪くても警察は示談後のトラブルは解決してくれない
現場で示談をしてしまった場合、相手のたちが悪く後で問題がおきることもあります。
しかし、警察は示談後のトラブルを解決はしてくれません。
そもそも警察は民事不介入の原則(犯罪とは関係ない民間人同士のトラブルには立ち入らない)で、示談の賠償額や過失割合に助言してくれないのです。
ましてや示談後のトラブルにも介入はしてもらえません。
1-4 事故のその場で示談すると必要な補償を受けられない
事故現場でけがはなく大丈夫だと思っても、後になってひどい症状が出ることも実際にあるのです。そんなときでも、その場で示談をしていたら、後々出てきた症状に対して必要な補償を受けられません。
交通事故のケガでよくあるむち打ちは、その場で感じるよりも後々ひどい症状が出ることが多いものです。
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また事故現場では、パニックとなり興奮してアドレナリンが出るため、痛みを感じにくくなっていることも。事故で起きた損害に対する十分な補償を受けるためにも、その場で示談してはいけないのです。
2 軽い接触事故でもその場で警察を呼ぶことが必要なわけ
軽い接触事故の場合、面倒だからと警察を呼ばずに済ませたいと思うかもしれません。
しかしどんなに軽い接触事故でも、その場で警察を呼ぶことが必要です。理由を順に解説しましょう。
2-1 警察への報告義務を怠ると刑事罰を受ける
交通事故をおこした際に、警察への報告義務を怠ると刑事罰を受けます。
道路交通法72条1項で、「交通事故があったときは警察に直ちに報告しなければならない」と決められているからです。
2-2 保険請求ができない
交通事故の保険請求をする場合には、事故証明書が必要となります。警察に届けていないと事故証明書などの必要書類が取得できないため、保険請求ができません。
そのため、軽微な事故であっても必ず警察に届けることが必要です。
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3 交通事故の加害者からその場で示談にしてほしいといわれたら
交通事故の加害者からその場で示談にしてほしいと頼まれても、応じてはいけません。
ここでは、そのときの対処法やなぜ加害者がその場で示談したいのか、その理由を順に解説します。
3-1 その場で示談には応じず警察や保険会社へ連絡する
もしも相手から「警察に届けないで」と懇願されても、かまわずに警察や保険会社に連絡しましょう。
警察に届けることは法律で決まっているので、連絡を怠ると後で処罰されることを相手に説明をします。
また保険請求と事故処理の流れを円滑に行うために、保険会社への連絡も必要です。
3-2 交通事故の加害者がその場で示談にしたい理由
交通事故の加害者がその場で示談にしたい理由をいくつか紹介しましょう。
[刑事事件の処罰を受けたくない]
刑事事件の処罰を受けたくないがために、示談にしたがるケースがあります。
人身事故は刑事事件の処罰の対象になることがありますし、飲酒運転やあおり運転などももちろん処罰対象です。
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やましさがある事故の加害者は刑事事件の処罰を受けたくないので、警察へ通報せずにその場で示談にしようとします。
[免許の点数が加算され免許取消や免停になる]
人身事故を起こした場合、免許の点数が加算され免許取消や免停になることが考えられます。
加害者は免許取消や免停にならないように、警察に届けずその場で示談にしたいと考えるのです。
[職を失う]
警察に連絡されると、刑事責任が発生し職を解雇される可能性があります。
ほかにも免停や免許取消になって車の運転ができないと、トラックドライバーやタクシー運転手などの職業ドライバーは職を失うため死活問題です。
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そのため、事故の加害者はその場で示談にしたがります。
[手続きが面倒だからその場で示談にしたい]
事故後警察に連絡し事情を聞かれたり、保険会社に連絡し保険請求の手続きをしたりが面倒なのでその場で示談にしたがるケースです。
その後に大事な予定があり急いでいるため、面倒な手続きをせずに示談で終わらせたい場合もあります。
4 事故後その場で示談により起こるトラブル
事故現場で大した事故ではないからとその場で示談にした場合、後でトラブルになることがあります。
ここからは、どんなことが起こりうるのかを紹介しましょう。
4-1 接触事故で被害者から大丈夫と言われたので示談にしたが…
ほんの軽い接触事故で、被害者から大丈夫と言われたので示談にしたら、後日連絡があって「痛みが出た」「後遺症が出た」などといわれトラブルになることがあります。
時間が経てば、事故の詳細もわからなくなってしまうもの。
そのため「痛みが出た」といわれても、本当に事故の影響かどうかもわかりません。
警察に届けていないので事故証明もとれず、示談がすんでいるのでいまさら保険を使うこともできないのです。本来、示談が終わればその後の治療費を払う必要はありません。
しかし、たびたび苦情を言われれば言われるがままに払ってしまう人も、なかにはいるのです。
4-2 事故現場で警察を呼ばなかったら後日連絡がきた
事故現場で警察を呼ばず示談にしたのに、後日連絡がきてトラブルになることもあります。
その場で両者合意のもと解決したと思っていたのに、あとから警察がやってくるケースです。
今は、ドライブレコーダーや防犯カメラ、スマホのカメラなどが普及しており、誰が見ているかわかりません。
当事者以外から警察へ通報が入る可能性も十分に考えられるのです。
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5 交通事故から示談成立までの流れ
事故現場でもっとも大切なことは、負傷者の救護と二次災害を起こさないなど安全の確保です。
まずは、落ち着いて車を安全な場所に停め、救急車を呼ぶなど負傷者の救護に努めましょう。
その後の示談成立までの流れを以下で解説します。
5-1 警察に連絡
負傷者の救護が終わったら、警察に連絡をしましょう。
道路交通法で決まっている連絡時に伝えることは、以下の5点です。
- 事故の日時と場所
- 死傷者の数と負傷者の数・けがの程度など
- 損壊したものと損壊の程度
- 車両の積載物
- 講じた措置
5-2 保険会社に連絡
保険会社への連絡のタイミングはとくに決まっていません。
しかし、契約内容によっては、レッカー車や代車の手配、修理工場の紹介などもしてもらえます。また、今後の処理のすすめ方も詳しく教えてもらえるはずです。
そのため、負傷者の救護や警察へ連絡などの義務をはたした後すぐに、保険会社へ連絡することをおすすめします。
5-3 入院や治療後、症状固定
交通事故でけがをした場合には、病院で治療を受けます。
大けがをしていれば、救急車で運ばれて入院治療することもあるでしょう。もしも軽傷だとしても、必ず当日か遅くとも2〜3日以内に受診し治療を受けます。
ケガが治癒するか症状固定で治療は終了となります。症状固定とは、後遺症が残りこれ以上症状が良くならないと判断されることです。
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後遺症が認定されれば後遺障害分として賠償金が支払われます。
5-4 示談交渉開始
物損事故の場合は、車の修理費用や買い替え費用などの見積取得後に、示談交渉が開始されます。
人身事故の場合は、ケガが完治した時点または症状固定により後遺障害等級が認定されたときに、示談交渉が開始されます。
どちらにしても、被害金額がはっきりした時点から示談交渉が始まるのです。
5-5 示談成立または不成立
提示された示談金額に加害者、被害者ともに納得できれば示談成立となります。
しかし、納得できなければ示談不成立です。交通事故の場合、示談不成立はよくあることです。
示談不成立の場合、あっせんや民事調停で第三者を入れて話し合いを続けるか、それでもまとまらなければ民事裁判まで発展します。
6 事故現場で大丈夫と思ってもその場で示談は絶対ダメ
事故現場で、大した被害もないからと軽い気持ちで示談に応じるのは絶対にやめましょう。
後になって大きな問題が発生することもよくあるからです。
まず、警察に通報しないことは、道路交通法違反で刑事罰を受けます。
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また事故現場ではけががないと思っていたのに、むち打ちが出てきて長く痛みが続くこともあるでしょう。
示談が終われば、示談内容以上の損害を請求できないのが原則です。
「けがはなし」で示談してしまっていたら、後から出てきたけがの治療費をすべて被害者側が支払うことになってしまうのです。
大丈夫だと思っても、けっしてその場で示談するのはやめましょう。
慰謝料の増額、後遺障害認定のサポートを中心に、死亡事故から後遺障害、休業損害の請求に取り組んでいます。
交通事故の被害者救済のために、積極的に法律・裁判情報の発信を行っています。
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