飲酒運転の交通事故の示談金の相場|慰謝料の金額を増額できます
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
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慰謝料の増額、後遺障害認定のサポートを中心に、死亡事故から後遺障害、休業損害の請求に取り組んでいます。
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飲酒事故に巻き込まれた場合、加害者から示談で済ませようと持ち掛けられるケースは珍しくないようです。
その際、気になるのは、「飲酒運転の事故の示談金はいくらくらいなのだろう」ということではないでしょうか。
また、そもそも、示談をすることでデメリット・問題はないのか不安に思うこともあるでしょう。
飲酒事故による示談金の相場は、例えば人身事故と物損事故とでは金額も請求できる慰謝料の種類が異なります。いずれにしても、相場を把握しておくことで、相手の提案を鵜呑みにすることを避けられるでしょう。
また、飲酒事故の示談金は、通常の事故よりも高額になる傾向にあります。増額できるケースや方法を知ることによって、適切な金額を受け取ることが期待できるでしょう。
今回は、飲酒事故の示談金について、相場を中心に詳しく説明します。
1 飲酒運転の示談金の相場
交通事故の示談金とは、事故の当事者(加害者・被害者)が合意した損害賠償金のことです。
飲酒事故の示談金は、通常よりも高額になるといわれていますが、相場はどのくらいなのでしょうか。示談金の相場をご紹介する前に、飲酒運転とは何かについて説明します。
1-1 飲酒運転とは
飲酒運転とは、飲酒の影響が強く残っている状態で車を運転することをいいます。
血中のアルコール濃度が高くなると、脳の機能は麻痺します。その状態で車を運転すると、車の操縦や判断が正常にできなくなり危険です。
飲酒運転は法律で禁止されています。
1-2 飲酒運転に関わる法律
飲酒運転に関わる法律は、道路交通法です。
①飲酒運転の禁止(道路交通法第65条第1項)
“何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
また、飲酒をした人に対して車を貸したり、運転する予定のある人に酒類を飲ませたりすることも、法律違反です。
②車両貸与の禁止(道路交通法第65条第2項)
“何人も、酒気を帯びている者で、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない。
③酒類の提供等の禁止(道路交通法第65条第3項)
“何人も、第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。
④飲酒運転の区別
・「酒酔い運転」:アルコール濃度の通知に関係なく、酒に酔った状態(ろれつが回らない、真っすぐ歩けないなど)で車を運転すること
・「酒帯び運転」:呼気中のアルコール濃度が0.15mg/L以上0.25mg/L未満の状態で車を運転すること
⑤酒酔い運転と酒帯び運転の刑罰
・「酒酔い運転」:懲役5年以下または罰金100万円以下(道路交通法117条の2第1号)
・「酒帯び運転」:懲役3年以下または罰金50万円以下(道路交通法第117条の2第2号)
ただし、人を巻き込んでケガをさせたり死亡させたりした場合は、
・「過失運転致死傷罪」:懲役(または禁固)7年以下または罰金100万円以下(自動車運転処罰法5条)
・「危険運転致死傷罪」:懲役15年以下(被害者を負傷させた場合)または懲役1年以上20年以下(被害者を死亡させた場合)
などの罪に問われる可能性があります(自動車運転処罰法2条)。
1-3 飲酒運転の示談金の相場・特徴は慰謝料の増額と過失割合
飲酒事故の示談金の相場は、通常の交通事故と比べて高い傾向にあります。
また、過失割合(被害者と加害者がそれぞれ負う交通事故の責任の割合)は被害者側に有利になるという点も、飲酒事故の示談金の特徴といえるでしょう。
【関連記事】飲酒して自転車事故|飲酒事故後の適切な対応と過失割合を解説
どの程度増額されるかは事故の程度などによって異なりますが、あるケースでは、通常の交通事故よりも1,500万円ほど増額されたということです。示談金については、以下の章で詳しく説明します。
2 飲酒運転の示談金の内訳
飲酒運転の示談金には、「人身損害」という名目で以下のものがあります。
・慰謝料
・休業損害
・治療費
2-1 人身損害
交通事故によって被った身体的な損害のことを「人身損害」といいます。示談金で話し合われる人身損害について、詳しく見てみましょう。
①慰謝料
交通事故によるケガや後遺症によって、精神的苦痛を強いられたことに対して支払われる賠償金のことを慰謝料といいます。慰謝料には、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料など複数の種類があります。
②休業損害
ケガの治療で入院や通院をし、その間仕事ができなくなった場合、本来なら得られるはずの収入を得ることが不可能になります。
この“本来なら得られるはずだった収入”が、休業損害です。休業損害は、基礎収入(事故前の収入)に休業日数をかけて計算します。
【関連記事】主婦(主夫)でも休業損害を受け取れます|損をしない3つのポイントを弁護士が徹底解説
③治療費
ケガの治療にかかった費用のことです。一般的に、治療を開始してから症状固定(これ以上治療しても改善されない状態のこと)までにかかる費用を指します。
【関連記事】交通事故の「治療費の打ち切り」とは?不払いへの3つの対応方法を弁護士が解説
④後遺障害の損害(後遺障害慰謝料、逸失利益)
症状固定と診断され、自賠責の調査事務所で後遺障害が認定された場合、「後遺障害慰謝料」の請求が可能になりますが、これは後遺障害によって生じた精神的苦痛に対して支払われる慰謝料のことです。
また、後遺障害が認定された場合、「逸失利益」も請求できます。逸失利益とは、交通事故に遭わなければ得たであろう収入をいいます。
【関連記事】後遺障害診断書のもらい方~手続きや取得のポイント
【関連記事】交通事故の高次脳機能障害の逸失利益とは?|計算方法も解説
2-2 物損
交通事故に巻き込まれても被害者がケガをしなかった場合は、物損事故とみなされます。かすり傷程度という理由から、被害者は物損事故として示談に応じることもあります。
いずれにしても、物損の示談金は、人身事故のそれよりも低額になりがちです。
物損がカバーするのは、
・車の修理代
・代車費用
・事故車評価損の埋め合わせ
など。相場は、5~30万円程度です。
3 飲酒運転の慰謝料の種類
飲酒事故の慰謝料には、以下の種類があります。
・傷害慰謝料(入通院慰謝料)
・後遺障害慰謝料
各慰謝料について、詳しく見てみましょう。
3-1 傷害慰謝料(入通院慰謝料)
傷害慰謝料は、入通院を余儀なくされ精神的苦痛を感じている被害者に対して支払われる慰謝料です。
傷害慰謝料の計算には、以下にあるいずれかの基準を用います。
・「自賠責基準」
・「任意保険基準」
・「裁判基準(弁護士基準)」
任意保険基準は、保険会社によって基準が異なりますが、自賠責基準と裁判基準の計算方法は、次のとおりです。
・自賠責基準:4,300円×治療期間(または「入通院日数×2倍」。期間が短い方を選択)
・裁判基準:『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』をベースに計算
3-2 後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ったことによって生じた精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
後遺障害慰謝料は、後遺障害等級(1~14段階)などによって異なります。後遺障害慰謝料を請求するには、審査機関から後遺障害等級の認定を受ける必要があります。
3-3 死亡慰謝料・近親者慰謝料
死亡慰謝料は、被害者が死亡した場合に発生する慰謝料のことです。近親者慰謝料は、被害者の家族に対して支払われます。
死亡慰謝料と近親者慰謝料は、用いる基準によって差が出ます。
|
死亡慰謝料 |
近親者慰謝料 |
自賠責基準 |
・一律400万円 |
・1人:550万円 ・2人:650万円 ・3人以上:750万円 (被扶養者はプラス200万円) |
裁判基準 |
・一家の支柱:2,800万円 ・母親や配偶者:2,500万円 ・その他(子供、独身者など):2,000~2,500万円 |
死亡慰謝料に含まれる場合や、別途発生するなどケース・バイ・ケース。 |
※各数字はあくまでも目安です。
4 飲酒運転の場合は慰謝料を増額出来ます。
飲酒事故の慰謝料は、通常の交通事故よりも増額される可能性があります。
【関連記事】交通事故その場で示談してはいけない理由|事故後の対処法も弁護士が解説
4-1 飲酒運転の慰謝料が増額される理由
飲酒運転は、法律で禁止されている行為です。加害者の方に非があるとみなされるため、通常よりも加害者の過失割合は大きくなるのです。
つまり、過失割合が加害者に加算された分、慰謝料は増額されます。
4-2 飲酒運転の裁判例
ここで、実際にあった飲酒運転の裁判例をご紹介します。慰謝料の計算には、裁判基準が用いられています。
判例:大阪地裁(令和2年判決)
酒に酔った状態の被告Aが運転する車によって発生した死亡事故案件。被害者は24歳のB氏で、結婚を控えていた。裁判所は、被害者B氏の将来を奪ったとして、被告Aに対し合計3,150万円の慰謝料(死亡慰謝料2,800万円、遺族慰謝料350万円)を支払うよう命じた(基準額2,000~2,500万円)。
・参照:『自保ジャーナル第2068号』
5 飲酒運転の過失割合
同じ事故でも飲酒運転の場合は、加害者の過失割合が通常よりも大きくなります。
加害者は、「酒を飲んで運転する」という法律違反を犯しているため、「過失割合の修正要素」が考慮されます。
5-1 酒気帯び運転で「著しい過失」の場合・・・被害者に5~10%が加算
酒気帯び運転は、「著しい過失」とされています。加害者側の過失割合は通常よりも5~15%加算され、その分被害者側の過失割合は減ります。
5-2 酒酔い運転で「重過失」の場合・・・加害者に5~20%が加算
酒酔い運転は、「重過失」です。加害者に加算される過失割合は、通常の5~20%。
例えば、重過失で加害者に20%加算される場合、通常なら過失割合が70対30の交通事故では90対10になるということです。
慰謝料の総額が1,000万円である場合、被害者が請求できる金額は、700万円から900万円に引き上げられます。
6 飲酒運転の賠償請求は弁護士へお任せ
飲酒運転の賠償請求は、弁護士に依頼するとよいでしょう。
その理由として、
①裁判基準で賠償金を計算する
②飲酒運転として適切に増額できる
③過失割合を主張してくれる
の3つが挙げられます。
①裁判基準で賠償金を計算する
賠償金の計算方法の中で、最も高額の賠償金を期待できるのが裁判基準です。
これは、「なんとかして高額になるように計算する」といった主旨の基準ではありません。過去の判例や事故の状況を考慮し、被害者に適した金額を算出することを目的としているのです。
弁護士費用は決して高くありません。けれども、裁判基準で計算することによって、適切な額の賠償金を請求できる可能性が広がります。増額できれば、弁護士費用を差し引いても十分な賠償金を手にする可能性は高くなるでしょう。
弁護士特約に加入している場合、ほとんどの弁護士費用を弁護士特約の範囲内でカバーできます。
【関連記事】「弁護士特約の利用は保険会社が嫌がる」ことなの?3つの理由と対応方法
②飲酒運転として適切に増額できる
飲酒事故の慰謝料には、通常の交通事故よりも増額しやすい特徴があります。
けれども知識が足りないと、どの程度増額してよいのか分からず、任意保険会社と示談交渉した時に不利な提案に応じてしまう可能性が高まります。
弁護士は、事故の状況や被害者のケガの状態、過去の判例といった判断材料を基に、賠償金を計算します。弁護士の主張する増額には客観的な根拠があるため、何かと争点の多い飲酒運転の示談でも交渉がまとまりやすく、被害者は適切な額の慰謝料を受け取ることが期待できるでしょう。
③過失割合を主張してくれる
飲酒事故において、過失割合は被害者側に有利になるといわれています。そのためには、示談交渉の場で適切な過失割合を主張し、保険会社の同意を得る必要があります。
多くの人は、「交渉慣れしている保険会社を相手に、自分の主張を通すのは無理がありそうだ」と考えてしまうのではないでしょうか。
その時こそ、弁護士の出番です。弁護士はいわば、交渉のプロ。保険会社を相手に被害者にとって有利な過失割合を主張します。その結果、被害者は、慰謝料の増額を勝ち取ることができるでしょう。
7 まとめ:飲酒事故は賠償金が増額します!
飲酒事故の示談金の相場について解説しました。
飲酒事故の主な特徴は、以下のとおりです。
・通常の事故よりも賠償金が増額する傾向にある
・飲酒事故の慰謝料には「傷害慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料・近親者慰謝料」の種類がある
・飲酒事故における過失割合は、通常よりも加害者に加算される
飲酒事故では賠償金が増額されやすい条件がそろっていますが、
・適切な示談金を提示する
・相手の提案を安易に受け入れず主張することは主張する
というスキルは不可欠です。
示談交渉に自信がないという場合は、弁護士に相談しましょう。保険会社の窓口になってもらったり、必要な手続きを代行してもらったりすることで、スキルに乏しくても示談を有利に進めることができるでしょう。また、保険会社を相手に直接示談をするという負担が軽減されます。
飲酒事故では、加害者から「示談で済ませたい」と持ちかけられることも少なくありません。事前準備を万全にしたうえで交渉に臨み、満足のいく金額の示談金を得ましょう。
【関連記事】交通事故を弁護士へ相談するベストのタイミングは?
慰謝料の増額、後遺障害認定のサポートを中心に、死亡事故から後遺障害、休業損害の請求に取り組んでいます。
交通事故の被害者救済のために、積極的に法律・裁判情報の発信を行っています。
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