交通事故の診断書の日数の記載の徹底解説|全治期間の意味から慰謝料との関係まで
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
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交通事故に巻き込まれてケガをすると、診察にあたった医師は診断書を作成します。
診断書にはさまざまな項目がありますが、特に気になるのは治療日数ではないでしょうか。
「これは、治療期間内に治療を済ませる必要があるということなの?」「診断書には全治○日と書いてあるけれど、それ以上治療が長引いたら?」など、不安に感じますよね。
そこで本記事では、交通事故の診断書に記載されている治療日数の意味や注意点、さらに慰謝料との関係について分かりやすく説明します。
1 交通事故の診断書の全治期間は
交通事故の診断書の全治期間とは、ケガの治療にかかるおよその治療日数のことです。
この「およその治療日数」には、どのような意味があるのでしょうか。
また、全治期間を判断するのは誰なのでしょうか。これらの疑問についてお答えします。
1-1 交通事故の診断書の全治期間はその期間しか治療を受けられないという意味ではありません
「全治○日」など診断書に記載されている日数のことを、「その期間しか治療を受けられない」と理解している人も少なくないでしょう。
けれども、全治期間は治療にかかるおよその日数を示すものであり、その期間内でしか治療を受けられないという意味ではありません。
診断書におよその治療日数を記入するのは、診断書を提出する警察署や任意保険会社が、被害者のケガの程度を把握するためです。つまり、診断書に記載されている全治期間の意味は、診断書を提出する機関に対して、「だいたいこのくらいの治療日数が必要です」ということを伝えるための目安に過ぎません。
つまり被害者は、診断書に記載されている全治期間を過ぎたからといって治療をやめる必要はないということです。
1-2 全治期間の判断は担当医が行います
全治期間の判断は、被害者を診察した医師が行うのが一般的です。といっても、診察をした“先生”なら誰でもかまわないというわけではありません。
例えば、ケガの程度や種類によっては、整体師に診てもらうことも可能です。けれども整体師は、施術はできても診断書の作成はできません。
診断書がない場合は、交通事故に遭ってケガをしたことが証明できず、人身事故として扱ってもらえないうえ、慰謝料などの請求もできなくなります。
後で後悔しないためにも、必ず病院で医師の診察を受けて診断書の作成を依頼するようにしましょう。
2 むちうちの場合の全治期間の記載
むちうち(「頚椎捻挫」または「外傷性頚部症候群」)とは簡単にいうと、首の捻挫のこと。外部からの強い衝撃によって頭が大きく揺さぶられて、首が不自然に伸び縮みすることで起こります。
むち打ちは追突事故で起こることが多い怪我です。
【関連記事】追突事故を弁護士へ依頼する3つのメリット|適正な慰謝料増額のために
交通事故でむちうちになった場合は人身事故にあたるため、診断書を作成して警察や保険会社に提出します。
むちうち治療の平均治療期間は、約2~6か月です。中には、6か月以上かかる人もいますがそれはまれで、多くの場合は6か月以内に治療が終わります。
といっても、診断書に記載される全治期間は、むちうちの平均治療期間とは異なる場合があります。
診断書に多い記載が、「頚椎捻挫(または外傷性頚部症候群):全治2週間」です。これは、たとえ軽いむちうちだったとしても、十分な治療を受けられるかどうかは微妙な期間でしょう。
なぜこうも平均治療期間と診断書の全治期間に大きな差があるのでしょうか。
それは、治療日数は、加害者が罪に問われる度合いに影響しているからです。交通事故で被害者が全治15日以上のケガをした場合は「重大な障害」とみなされて、加害者は重い罪に問われる可能性が高くなります。
そのため、医師は15日以上の全治期間と診断することに慎重となり、むちうちなど骨に異常が見つからないケガを軽症とし、「全治2週間(14日)以下」と記載する傾向にあるのです。
むちうちは、途中で治療をやめてしまうと症状が固定し、後遺症が残る可能性があります。診断書の全治期間はあくまでも目安として、治療に専念するのが得策でしょう。
3 治療期間中の注意点
ケガの治療期間中は、治療に専念することで精一杯かもしれません。
けれども、うっかりしていると慰謝料の請求ができなかったなど、後悔する状況に追い込まれる可能性があります。
ここでは、治療期間中の注意点について、主なものをご紹介します。
3-1 加害者の保険会社からの治療費の支払いの打切り
診断書に記載されている治療日数は、あくまでも目安です。けれども、全く無視できるかというとそうではありません。
任意保険会社は、診断書に記載されている治療期間を参考にして、治療費の支払いを被害者に打診することがあるからです。
任意保険会社から支払われる治療費は、ケガを治すための治療を対象としています。
そのため、「症状固定(これ以上治療を続けても症状の改善は見込まれないという状態)」と診断された時点で、治療費の支払いは終わります。
任意保険会社から治療費の打ち切りを告げられても、治療を続けなければいけない場合は、同意する必要はありません。
治療を継続するかどうかの最終判断を下すのは担当医です。もし、治療が終わる前に治療費の打ち切りを打診された場合は、返答する前に担当医に相談しましょう。
3-2 勝手な判断で治療を終えてしまってはいけません
自分の思い込みで、治療を途中でやめないようにしましょう。
「任意保険会社から『治療費を打ち切る』と言われたし、症状もそれほど出ていない。病院に通うのも面倒なのでもう治療しなくてもいい」といった自己判断をして示談に同意してしまうと、後で何か症状が出た場合に賠償金を請求できなくなります。
治療には、ケガを治療するためのものと、後遺症をケアするものとの2種類があります。
たとえ症状固定となった場合でも、後遺症障害認定を受けることによって、任意保険会社に対して慰謝料を請求することは可能です。
けれども、自己判断で勝手に治療を終えてしまうと、その時点で治療が必要ではないとみなされて、後遺障害認定の申請に悪影響が出ます。
4 交通事故の診断書の記載と(入通院)慰謝料の関係
4-1 傷害慰謝料の3基準
交通事故でケガをすると、治療のために入通院する必要があります。その際、仕事を休んだり治療の痛みに耐えたりするなど、精神的・身体的に苦痛を感じるでしょう。
そうした苦痛に対して支払われるのが、傷害慰謝料(入通院慰謝料)です。
傷害慰謝料の計算方法には、以下の3基準があります。
・任意保険基準:任意保険会社が設定している計算基準。各保険会社によって基準は異なる
・自賠責基準:自賠責保険で傷害慰謝料を支払う際に用いられる基準。日額4,300円で計算(実通院数×2倍+入院日数)
・裁判基準(弁護士基準):弁護士が慰謝料を請求する際に用いる基準。過去の判例を参考に算出する
3基準で金額が異なるのは、計算する側の主旨がそれぞれ異なるからです。
自賠責保険は、「必要最低限の補償を提供する」という主旨の保険であり、自賠責基準も必然的に「必要最低限の補償」をベースに計算します。そのため、3基準の中で最も慰謝料が低い傾向にあります。
任意保険会社は、企業という営利を目的としている組織です。自賠責基準よりも高い金額になるものの、自社の利益にウエイトを置くため、裁判基準よりも慰謝料は低くなります。
弁護士は、被害者の側に立つ人間であり、公正・公平であろうとします。過去の判例を参考にしながら、適切な慰謝料の算出を行います。結果的に自賠責基準や任意保険基準よりも金額は高くなる傾向にあります。
4-2 傷害慰謝料の計算(ケース別)
傷害慰謝料は、ケガの程度や治療期間によって異なります。
①むちうち 通院のみ6か月
②むちうち 通院のみ3か月
③左足骨折 入院1か月、通院3か月
の3ケースについて、自賠責基準と裁判基準を用いて傷害慰謝料の計算をします(あくまでも参考例として計算していますので、実際の金額と異なることがあります)。
①むちうち 通院のみ6か月
むちうちの治療で6カ月間通院(実通院日数75日)した場合の傷害慰謝料は、以下のとおりです。
・自賠責基準:645,000円
・裁判基準:890,000円
②むちうち 通院のみ3か月
むちうちの治療で3カ月間通院(実通院数40日)した場合の傷害慰謝料は、以下のとおりです。
・自賠責基準:344,000円
・裁判基準:530,000円
③左足骨折 入院1か月、通院3か月
左足を骨折し、1カ月入院(30日間)した後、3カ月間通院した場合(実通院数40日)の傷害慰謝料を計算してみましょう。
・自賠責基準:602,000円
・裁判基準:1,150,000円
5 交通事故の診断書の就業禁止期間の意味
交通事故の診断書の中には、「就業禁止期間」が設けられているものもあります。
これはケガなどによって仕事ができない期間を意味するものであり、勤務先に診断書を提出する場合に必要です。
ケガによる入院や通院で仕事を休む場合は、ケガによって就労できない旨が記載された診断書を勤務先に提出します。
その場合休職扱いとなり、基本的に給料は支払われません(有給休暇を除く)。もっとも、交通事故によるケガの治療で収入が減ることから、加害者からその分を「休業損害」として請求できます。
6 交通事故の傷害慰謝料を弁護士へ依頼するメリット
「交通事故の傷害慰謝料の請求は、弁護士に任せた方がよい」といわれることも多いでしょう。
それには、以下のメリットがあるためと考えられます。
・治療の打切りへの対応
・保険会社との連絡・交渉窓口を任せられる
・慰謝料を裁判基準(弁護士基準で行ってもらえる)
・後遺障害を被害者請求で行ってもらえる
各メリットについて、詳しく見てみましょう。
6-1 治療の打切りへの対応
引き続き治療する必要があるのに治療を打ち切られた場合、弁護士は任意保険会社に対して治療延長の交渉をします。
弁護士に依頼しなくても、被害者が任意保険会社と治療費の打ち切りについて話し合うことは可能です。
けれども、話し合いの場に慣れている任意保険会社は、素人の被害者に対してもっともらしいことを言ったり、専門用語を多発して話を難しくさせたりして、自分たちにとって有利な展開に持っていこうとする傾向にあります。そのため、任意保険会社の言い分に圧倒されて打ち切りに同意してしまうリスクが考えられます。
弁護士は、病院からカルテを取り寄せて治療が必要であるかどうかを確認するなど必要な情報を収集し、検討します。
そして、治療が必要であると判断した場合は、正当な理由を持って任意保険会社を相手に打ち切りに対する交渉を行います。
このように、弁護士は情報収集から書類の作成、交渉まで必要な作業を全て代行します。弁護士に治療費の打ち切りへの対応を任せることによって、被害者は治療に専念できるでしょう。
6-2 保険会社との連絡・交渉窓口を任せられる
被害者は、加害者が加入している任意保険会社と、事故後の傷害慰謝料について連絡を取り合う必要があります。ここでケガや治療の状態などを正確に伝えないと、治療費の打ち切りに影響を与える可能性があります。これは、被害者にとってストレスを感じることではないでしょうか。
弁護士は、こうした任意保険会社とのやり取りを一手に引き受けます。つまり、加害者と同じように、こちらも代理人を通じて傷害慰謝料のやり取りを進められるということです。交通事故の専門家である弁護士なら、安心して保険会社との連絡窓口を任せられることでしょう。
6-3 慰謝料を裁判基準(弁護士基準で行ってもらえる)
弁護士は、裁判基準を使って慰謝料を算出します。
裁判基準は、基本的に他の2基準(「自賠責基準」と「任意保険基準」)よりも慰謝料が高くなる傾向にあります。傷害慰謝料が高額になればなるほど差額も大きくなるため、よりメリットを感じるでしょう。
弁護士に依頼する場合は、弁護士費用(慰謝料の10~15%が目安)がかかります。しかし、手続きの手間や精神的な負担などを考えると、慰謝料の増額分が弁護士費用を上回ると予想できる場合は、弁護士に依頼するのが賢明です。
また、弁護士特約に加入している場合、弁護士に支払う費用は、保険会社に負担してもらえます。
6-4 後遺障害を被害者請求で行ってもらえる
交通事故で後遺症が残った場合、被害者は加害者に対して後遺障害慰謝料の支払いを求めることができます。弁護士に依頼することで、受け取る後遺障害慰謝料は高額になる可能性が高まります。
後遺障害慰謝料を請求するには、審査機関に必要書類を提出します。
提出方法には、任意保険会社が行う「事前認定」と、被害者が行う「被害者請求」の2種類があります。
被害者は請求方法を選べますが、
・後遺障害の状態を被害者の立場から伝えやすい
・関連資料を添付しやすい
という理由から、被害者請求の方がより正確に後遺症認定を受けられ、その結果、適切な額の後遺障害慰謝料が支払われる傾向にあります。
被害者請求は自力でも可能ですが、書類作成の正確性や手間を考えると、弁護士に依頼した方がスムーズに進みます。
7 まとめ
交通事故の診断書に記載されている、治療日数の意味や慰謝料との関係について解説しました。
この治療日数はケガの治療に必要な期間の目安で、実際にケガが完治するまでの期間ではありません。
どのくらいの日数が必要になるかについては、実際に治療を続けてみないとわからないことですし、診断書の日数よりも治療期間は延びても、治療費を受けながら治療を続けることは可能です。
その際に覚えておきたいのは、任意保険会社が打診する治療費の打ち切りは、任意保険会社の都合であるということです。
治療期間については担当医と相談し、最終的にどのくらいかかるのかということを確認しましょう。期間延長の可能性がある場合は、適切に慰謝料を請求できることを考えた場合、弁護士に依頼するのが無難です。
必要なことは弁護士に任せて治療に専念できる環境を作り、交通事故によって生じた問題のスムーズな解決を目指しましょう。
慰謝料の増額、後遺障害認定のサポートを中心に、死亡事故から後遺障害、休業損害の請求に取り組んでいます。
交通事故の被害者救済のために、積極的に法律・裁判情報の発信を行っています。
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