非嫡出子の相続について~相続権や相続割合、遺産分割協議のポイントや注意点
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
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非嫡出子が関わる相続はトラブルが生じやすいため、どう向き合うべきか、どう準備するべきか、理解しておくことが重要になります。
しかし、そもそも非嫡出子が相続において、どのような影響を及ぼすのか、ご存じでない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、相続問題に詳しい弁護士が、弁護士の視点から、非嫡出子と嫡出子の違い、相続のデメリット、相続権・相続割合、遺産分割協議のポイントと注意点などについて、具体的に解説していきます。
1 非嫡出子とは?嫡出子との違いについて
1-1 非嫡出子とは?嫡出子との違い
非嫡出子とは、一般に婚姻関係を結んでいない男女間で生まれた子供のことを指します。ここでの婚姻関係とは、法律上で認められた婚姻のことを言います。
例として挙げると、事実婚や内縁関係、不倫関係によって生まれた子供は、非嫡出子に該当します。一方で嫡出子は、法律上で婚姻した夫婦の間に生まれた子供のことを言います。
非嫡出子と嫡出子を比較してみると、日常生活の中での扱いにおいて差が生じるようなことは一般的にはありません。
しかし、相続の観点からみると、相続人である場合には相続割合が変わるようなことはありませんが、デメリットが生じる部分があるため、注意が必要です。
以降の章節で詳しく解説していきますが、非嫡出子に関連する相続の問題は複雑であり、適切な理解と対処が求められます。
1-2 嫡出子とは
嫡出子とは、法律上正式に婚姻した夫婦の間で生まれた子供のことを指します。
例えば、その子供が、夫婦の離婚から300日以内に生まれたのであれば、前婚者との間に生まれた嫡出子として扱われることになります。
そのため、離婚して300日以内に再婚した場合、基本的には前婚者との間に生まれた嫡出子であり、離婚後の妊娠である場合には医師の証明書が必要となります。
ここで、このような扱いとなっているのは、子供と母親とは親子関係があるのは間違いありませんが、父親との親子関係があるかどうかという点にあります。
ただ、穏やかな家庭を築くためには、父子の親子関係を早期に判断することが必要であるため、『嫡出推定制度』が定められているのです。
1-3 嫡出推定制度の考え方
『嫡出推定制度』は、婚姻中に妊娠した子供が、夫と子供に血縁関係があるのかどうか、法律上の関係を推定するための制度です。
嫡出推定制度において、嫡出子とされる子供は、以下の条件に当てはまります。
- 婚姻中に生まれた子供
- 婚姻した日から200日以降に生まれた子供
- 離婚してからから300日以内に生まれた子供
この制度により、仮に血のつながりがない場合でも、法律上において父親の子供とみなされるため、安定した家庭の構築や親子関係の確立、遺産相続などがスムーズです。
さらに、嫡出子は、3種類に分類されることになります。
- 推定される嫡出子:上記の条件に該当する嫡出子で、一般的な嫡出子の形態です。
- 推定されない嫡出子:上記の条件に該当しない子供で、「できちゃった婚」「授かり婚」などがこの例に当たります。しかし、嫡出子として出生届を提出できるため、問題となることは少ないです。
- 推定の及ばない嫡出子:夫と離婚状態にある場合や夫が行方不明など。
この嫡出推定制度は、親子関係の保護や法的な処理を円滑に進めるための重要な制度であり、日常生活における多くの側面で影響を及ぼしています。
嫡出推定制度によって、子供の法的地位が明確にされるため、法的なトラブルを未然に防ぐ役割も果たしているのです。
2 非嫡出子の相続の上でのデメリット
2-1 父親の相続人になれない
非嫡出子は、法律上の親子関係がないために、父親の相続人にはなれません。このため、父親が亡くなった場合にも、父親からの財産を相続する権利が生じません。
非嫡出子が父親の相続人になるためには、父親から認知される必要があります。
嫡出子や認知された非嫡出子は、親子関係が法律上成立しているためで、親子間の相続において平等な扱いを受けることが定められています。
2-2 非嫡出子が父親と親子関係になるには
婚姻していない男女の間に生まれた非嫡出子と父親の間には、法律上の親子関係は生じません。親子関係を成立させるには、父親が子供を認知する必要があります。
認知とは、父親が自分の子供であると明確に認める法律上の行為です。
この認知によって初めて、非嫡出子と父親の間に法律上の親子関係が成立し、子供に父親の相続権が与えられることになります。そのため、認知は非常に重要な手続きであると言えます。
一般的に、認知の対象となるのはほとんどが父親です。母親は出産によって自動的に親子関係が成立するため、母親が認知するケースは極めてまれです。
2-3 非嫡出子が嫡出子になるには
非嫡出子が嫡出子と認定されるには、『準正』と呼ばれるプロセスが必要となります。
『準正』には、以下の2種類があります。
- 婚姻準正:父親が非嫡出子を認知した後、両親が婚姻関係を結ぶことで、非嫡出子が嫡出子として認定されるケース
- 認知準正:両親が婚姻関係を結んだ後に、父親から非嫡出子が認知されることで、嫡出子として認定されるケース
3 非嫡出子の相続権・相続割合について
3-1 母親の相続について
非嫡出子は、出産によって自動的に母親との間に法律上の親子関係が発生します。
そのため、母親が亡くなった際には、例外的な場合を除いて、非嫡出子は自動的に相続人となります。
例外的な場合とは、欠格事由・廃除・相続放棄などを指しています。
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3-2 父親の相続について
非嫡出子は、法律上において父親と親子関係にないことから、父親が亡くなった場合には、相続権は生じません。
非嫡出子に父親の相続権を生じさせるには、父親からの認知が必要となります。
認知によって初めて、非嫡出子と父親の間に法律上の親子関係が認められることになり、相続人としての権利が発生します。
認知は、『任意認知』『強制認知(裁判認知)』の2種類に分けられます。
『任意認知』とは、父親の意志で非嫡出子を認知する方法です。父親が生きている間に、自分の意志で非嫡出子を法的な子供として認知することができます。
『強制認知(裁判認知)』とは、家庭裁判所に認知調停を申し立てて、父親の合意を得られれば法律上の父子関係が生じる方法です。
父親が任意認知に応じない場合や、父親が亡くなった後(死後認知)など、非嫡出子の権利保護のために用いられます。
3-3 非嫡出子の相続割合
非嫡出子が相続人になる場合、法定相続分は嫡出子と同じ割合で相続されることになります。つまり、嫡出子であるか非嫡出子であるかは、相続割合に関係はありません。
かつて民法上では、非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1とする旨が規定されていました。非嫡出子を嫡出子とは異なる位置づけにしていたため、非嫡出子の法的地位が不利なものとされていました。
しかし、「法の下の平等」に反し違憲であるとの最高裁の判決によって、この法律が削除され、民法が改正されることになったのです。
4 非嫡出子の遺産分割協議について
4-1 非嫡出子が遺産分割協議に参加しない・できないケースが多い
遺産分割協議は、相続人間で遺産の分配を話し合い、合意を形成する重要な場です。
そのため、相続人に非嫡出子が存在する場合、非嫡出子が参加せずに遺産分割協議を行うと、その協議自体が法的に認められなくなってしまいます。
すべての相続人の合意が必要であるため、非嫡出子の同意が得られない限り、協議の効力は発生しないのです。
しかし、実際には以下のようなケースがみられます。
①非嫡出子と連絡が取れない(連絡先がわからない)
非嫡出子の存在が知られていても、連絡先がわからず、遺産分割協議に参加してもらえないケース。
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②父親が生前に認知に応じなかった
非嫡出子がいるにも関わらず、実の父親からさまざまな理由によって認知を拒絶されるケース。この状況を解決するには強制認知・死後認知といった法的手続きが必要になる。
③被相続人の死後に非嫡出子がいることがわかった
相続手続きのために戸籍謄本を確認したところ、非嫡出子の存在が判明したといったケース。
④非嫡出子の存在は知っているものの、遺産分割協議の存在を教えなかった
意図的に非嫡出子に協議の存在を隠したり教えなかったりするケース。
⑤非嫡出子が自ら参加しなかった
例えば、嫡出子からいじめを受けているような場合など、心理的な障壁が協議への参加を阻害するケース。
しかし、どのような事情があるとしても、非嫡出子の参加しない協議は法的に認められず、多岐にわたる問題が発生する可能性があります。
4-2 事前に相続人と相続財産を調査・確定しておくことが重要
遺産分割協議は法律に基づき、相続人全員の合意が必要です。相続人が欠けると、協議そのものが無効になるため、事前に全員を確認することが求められます。
非嫡出子が相続人である場合、参加が必須となります。参加させずに行った協議は法的に認められず無効となり、やり直しが必要となります。
そのため、相続人を対象に遺産分割協議を進めるためには、戸籍を十分に調査しておき、対象となる相続人を確定しておくことが必須となります。
戸籍調査など、専門的な知識と経験が求められる部分もあるため、必要に応じて弁護士の助言やサポートを受けることも視野に入れると良いでしょう。
その上で、相続財産ももれなく調べるようにしましょう。
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5 非嫡出子との遺産分割協議においてトラブルを避けるには
5-1 遺言書において相続の方法を指定する
遺言書によって相続の方法を指定しておくことは、非嫡出子との遺産分割協議におけるトラブルを避けるために、重要な手段となります。
明確な指示を遺言書で残しておくことで、非嫡出子との遺産分割に関して、どのように進めるべきかがはっきりします。
遺言書で相続の方法をあらかじめ指定しておけば、その内容を遺産分割協議の中で争う必要性がなくなるため、必然的にトラブルを避けることができるのです。
しかしこれには注意が必要で、相続人の中には、不満となる相続内容になる可能性があり、トラブルが生じることが考えられます。
そのため、遺言書の内容は慎重に考えることが重要になります。
必要に応じて弁護士と相談し、正しい手続きを踏むことで、将来的な法的なトラブルを回避することができるでしょう。
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5-2 生前に非嫡出子を認知する
生前に認知することは、非嫡出子との遺産分割協議においてトラブルを回避するためにとても重要です。
認知することで、非嫡出子に対する法的な権利が明確になるため、遺産分割協議における対立を避けることに繋がります。
しかし現実には、父親が認知を拒否するケースは少なくありません。知られたくない、非嫡出子に相続したくない、などの理由がみられるからです。
しかし、いくら認知を拒否しても、死後に強制認知や死後認知などの手段を活用すれば、非嫡出子の認知は可能となります。
このような手続きは、関係者間での摩擦やトラブルを生む可能性があるため、できれば避けたいところです。
そもそも、DNA鑑定によって親子関係が実証されれば、認知を拒否すること自体が困難になります。
そのように考えれば、早期の認知によって、関係者間の認識を共有することで、未来のトラブルを未然に防ぐことが可能になるのです。
5-3 代理人として弁護士に依頼する
遺産分割協議は、相続人同士で行う必要がありますが、当事者だけでは話が折り合わず、前に進まないといったケースが多いのが現実です。
感情が交錯し、冷静な判断が難しくなることが一因です。
このような状況下でトラブルを避けるには、遺産分割協議の交渉や家庭裁判所での調停を弁護士に任せることがおすすめです。
弁護士は第三者として中立的な立場を保つことができ、個々の相続人の感情や意見に左右されず、公正な判断が可能です。
さらには、専門性を活かし適切な提案を行うことができ、紛糾した議論を円滑に進め、お互いの要求を調整し、合意へと導く力があります。
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6 まとめ|非嫡出子の相続は弁護士へ相談
本記事では、非嫡出子の相続について、非嫡出子と嫡出子の違いや相続割合、遺産分割協議のポイント、さまざまな注意点を踏まえて、詳細に解説しました。
非嫡出子を相続の観点からみると、デメリットが生じる部分があります。認知されて相続人である場合であっても、相続人相互の感情によって、遺産分割協議が進まないケースも珍しくありません。
そのため、弁護士の中立的な立場、法的知識の活用、交渉力は、遺産分割協議を円滑に進めるための鍵となります。相続におけるトラブルを未然に防ぐためにも、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
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